ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 青春18きっぷの旅と読書 ②

宮部みゆき『火車』

 今日は読書の話題。先日青春18きっぷで日帰り旅をしたとき、列車内で読んだ本の感想の続きで、宮部みゆきの『火車』。

 宮部みゆきは、なぜか今まで読んでいなかった。年代としては、私と同世代の作家ということになる。ミステリーから時代小説、ファンタジーまで、たいへん幅広い作家だということは知っていたのでどの本を買おうか迷ったが、先に今村翔吾の『八本目の槍』を選んでいたので、ミステリーにしようと本屋で選んだのがこの本。

 というわけで、話の内容に触れるので、これから『火車』を読もうと思っている人は飛ばしてください!

『火車』

感想

 初めて読む作家が自分に合うかどうかは、文体がかなりの比重を占めている。実は、宮部みゆきの作品を読んだことがなかったのも、人気のある他の女性作家で、読んでみたが相性がいまいちで2冊ほどでやめてしまった作家がいるからだった。だが、『火車』は、最初の数ページ読んでこれは行けると思った。

 物語は捜査中の怪我で休職中の刑事本間俊介の描写から始まり、彼の視点で話は進む。親戚の栗坂和也に依頼され、姿をくらました婚約者関根彰子の行方を本間は探すことになる。本間の息子智や同じマンションに住む井坂、それから聞き込みに行った寺務所の弁護士や女性事務員など、脇役的な登場人物に至るまで、生身の人間としてしっかりと色づけされて描かれている。そのため、話はなかなか直線的に前に進まないが、表現が上手いので集中して読み進めることができる。

 100ページ目くらいで、和也の失踪した婚約者は、関根彰子と別人であることが分かり、話は展開を見せる。和也の話から、彼女が名前を自分のものにした関根彰子がカード破産をしていた過去を持つことが失踪の原因だということが分かる。しかし、なぜ自分の名前を捨てて別人の名にならなければいけなかったのか、また、彼女と関根彰子との接点はどこにあるのか、そして彼女は誰でどこにいるのか、不可解な点は多い。それらの謎を解明するために、本間は警察の同僚である碇の助けも借りて、聞き込みを続けて行く。

 話は全体の5分の3くらいまで進んだところで、偽の関根彰子の名前が新城喬子であることが分かり、そこから、本間は喬子の姿を追っていくことになる。小説は、最後に喬子が本間たちの前に姿を現すところで終わる。

 いい小説だったが、ちょっと気になった点を。この小説は平成の初め頃に書かれたもので、カード社会の怖さというものが背景にある。中心となる二人の女性を直接描かず、周囲の人物の話から浮き彫りにしていくという展開はおもしろかったが、喬子が見知らぬ人間を殺すという強い動機があるかという点は弱い気がした。それから、途中から主要な登場人物になる本多保が捜査に協力するというあたりもやや無理がある感じがあった。本田保と、新城喬子の犯罪を暴く決め手となる片瀬の二人は、他の登場人物と比べて、話の展開のために作られた人物というふうに見えた。

 とにかく、文庫本で700ページ近くの長編だが、一気に読ませる物語としての力があった。この作者の本は、続けて読んでみたいと思った。

☆下の写真は今朝の散歩中の写真です。畑の野菜二景。

畑の野菜 其の一

畑の野菜② 其の二