ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 最近読んだ本 2023年 其の四

ブックオフで本を買う

 今日話題にする3冊はすべてブックオフの100円コーナーで購入した。したがって合わせて330円。私は本をきれいなままでとっておく趣味はないので、ブックオフは費用対効果という面では最高だ。

朝井リョウ『何者』

 朝井リョウの本を読むのは初めてだったので、無難に直木賞を受賞したこの作品を買ってみた。

 描かれているのは就職活動時期に差し掛かっている何人かの大学生の男女の日常。各々のSNS、特にツイッターの文がところどころに挟まれて話は進む。読みかけてふっと私の学生時代にやっていたドラマ「不揃いの林檎たち」が頭に浮かんだが、こちらは昭和の四流大学の話。『何者』は大学名だけで企業から弾かれることはない一流か二流の私大の学生たちだ。

 SNSというフィルターを通しての自己表現が当たり前となった時代の大学生の自意識のありようがリアルに描かれている。主人公の拓人の一人称で描写されているため、読者は拓人の視点から登場人物の姿を見ることになる。

 上手い小説だと思いながらも、このまま大きな展開もなく終わるのかと、ややもやもやしながら思いながら読み進めていったが、後半になって、瑞月が隆良にきつい言葉をぶつける場面で話が引き締まり、最後の場面でなるほどといった感じだった。観察者であった主人公拓人の立ち位置が逆転し、主人公の視点に立っていた読者の心も揺さぶられることになる。さらに「何者」という題名の意味も明らかになる。読み終えて、いろいろと仕掛けが施されていたことが分かる作品だった。

朝井リョウ『何者』

桜木紫乃『ホテルローヤル』

 桜木紫乃の作品も初めて読む。これも直木賞受賞作。

 この作品は、北海道にあるホテルローヤルという名のラブホテルを舞台とする連作短編集。連作短編という形式は読みやすくて好きだ。ホテルの裏事情などもリアルに描かれているが、作者の父親が同名のラブホテルを実際に釧路に開業し、作者自身、手伝いもしていたという経験からくるとのこと。

 この本は、6月に近鉄のフリー切符で鳥羽方面に出かけた時に電車内で読んだのだが、読みやすく一気に読めた。文章がうまく場面がイメージしやすい。さらっと描いているようだが、登場人物の人生が哀愁を伴って伝わってくるのがいい。

 それから、連作短編としての作品の順番が工夫されており、冒頭の「シャッターチャンス」は、ホテルが廃業して廃墟となった後の話で。最後の「ギフト」がホテル開業時の話。7編の登場人物には直接のつながりがなく、交わることはないが、作品全体としてのまとまりがあり、連作短編としてのおもしろさがあった。

桜木紫乃『ホテルローヤル』

宮部みゆき『あやし』

 宮部みゆきの時代物は三島屋シリーズの『おそろし』に続いて2冊目。これも電車内で読んだ。江戸を舞台にした奇譚が9編。「外れ無し」の作家で、文章の上手さ、話のおもしろさが安定している。全編について書くと長くなるので一編だけ感想を。

 「時雨鬼」という作品。主人公のお信は恋人の重太郎に奉公先を替わるよう勧められ、その相談のため以前世話になった口入屋を訪れるが、主人は不在で妻だという女が相手をする。お信は女と話を交わしたた後、自分の店に戻るが、2日後に岡っ引きの手下がやって来る。そして思いがけない話を聞く。怪異譚というだけではなく、ミステリーとしてのおもしろさもある作品だった。さすがという印象。

宮部みゆき『あやし』