ブックカバーを見て本を買う
本にはブックカバーがある。普段、カバーの絵だけで本を買うということはないのだが、思わず買ってしまったのがこの本。ブックオフで文庫本の棚を見ていると、ちょっと変わった質感の本があったので取り出してみると、手作り感のあるカラフルなブックカバーがかかっており、その下に出版された時の本来のカバーが見える。どちらのカバーも気に入ったので、思わず買ってしまった。
ブックカバーにも書かれているが、これは栃木県にある「うさぎや」という本屋が「あずかりやさん」というこの本を広めるためのプロジェクトを行い、そのひとつとして、この本にぴったりのオリジナルブックカバーを作成したということだった。
大山淳子『あずかりやさん』
大山淳子という作者名は見たことがあったが、読むのは初めてだ。作風についての予備知識はない。後で調べると1961年生まれということで私と同い年だ。ちなみにここ1年ほどの読書の中で、読んでいて相性がよかったのは、自分と同世代の女性作家の文章が多かった。ブログに取り上げた作家では、宮部みゆき、小川洋子、中島京子、姫野カオルコ、そしてこの大山淳子。みんな私の生まれ年の前後3年の中に入っている。まあ、単に優れた作家が多い年代ということかもしれない。
『あずかりやさん』は、10年ほど前に出版され、人気シリーズとなり、その後第5巻まで出ているという。目次を見ると短編が7作品収録されているので、連作短編集という形式らしいことが分かる、
最初の短編「あずかりやさん」の書き出しがこんな感じ。
ーここは明日町こんぺいとう商店街の西のはじに位置しています―
出だしからファンタジーであることが読者に示されている、潔い書き出しだ。「あずかりや」というのは、一日百円でどんなものでも預かるという店で、目が見えない若い男性店主が店をやっている。語り手は話ごとに変わり、店ののれん、自転車、ショーケースとなって、4つ目の作品で客の女性になり、後の3作品は店にいる猫となる。文章は読みやすく、本の好きな子なら小学校高学年くらいから読めそうだし、大人が読んでもおもしろい。
最初の短編の中で、店主である桐島さんの両親が目の見えない彼を置いて家を出ていき、17歳でこの奇妙な店を始めたということや、その人物像などが語られる。品物を預けにくる人々はそれぞれの事情を抱えており、様々なものを持ち込んでくるが、店主は感情を表に出すことなく、おだやかな態度でそれを受け取り、期限が来て取りに来たら返却する。目が見えなくても、客の声を聞き分け間違えることはない。
最初の話の中で、後につながるような謎がいくつか示され、それがその後の話の中で解決されるといった謎解き的な要素もあり、大きな事件はあまり起こらないが、読者を退屈させない。ある話に出てきた人物が、後の話で成長して登場するといったところもいい。例えば、最初の話に出てくるランドセルの少女が4番目の「星と王子さま」で17年後に離婚を迷っている女性として登場したり、同じ話の中の笹本という男性が、2番目の「ミスター・クリスティ」で自転車を預けた少年であったり、3番目の「トロイメライ」で母猫が置いていった冷たくなった子猫が生きていて、後の話の語り手になったり。
示された謎や伏線がすべてきれいに回収されているというわけではないが、気にならない。いちばん大きな謎は、店主の桐島さんが視力を失い、彼の両親が彼を置いて行った経緯、またこの店を開くに至ったいきさつなのだが、このシリーズは続編が何冊か出ているようなので、そこにヒントがあるかもしれない。続けて読んでみようかと思った。