ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 青春18きっぷの旅と読書 ③

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

 今日は雨模様。朝の散歩もやめたので読書の話題でも。

 青春18きっぷの旅で、列車内で読んだ本の感想の3回目。先日和歌山方面に行った時読んだ東野圭吾の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。

 東野圭吾の本は、最後に読んだのが15年ほど前の作品。最近のものを読んでいないので久しぶりだ。本屋で選ぶときに迷ったが、連作短編の形式なので読みやすいだろうと思い買った。

 ここからは作品の内容に触れるので、まだ読んでみない人で、内容を知りたくない人は飛ばしてください。

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

ミステリーとファンタジー

 東野圭吾は読者のつかみかたがうまい。物語の最初で、この先どうなっていくのかと思わせる大きな謎を提示する。

 この話は最初に犯罪を犯して逃走中の3人の若者が登場する。彼らは隠れ場所として古い雑貨店に忍び込むのだが、誰も住んでいないはずの店のシャッターの郵便受けから奇妙な手紙が投げ込まれる。「月のウサギ」という差出人からのその手紙は不治の病にかかった恋人を持つオリンピック候補選手の女性からの、競技を続けるかどうかの相談だった。3人はなぜこんな手紙が届いたのか訝しく思うが、店にあった古い週刊誌から、この店の昔の主人が人々の悩み相談への回答で有名だったことが分かる。彼らは女性に主人と同じやり方で返事を書くが、女性の次の質問がすぐにまた届く。手紙のやり取りをする中で、彼女の手紙が30年以上前の過去から届けられたこと、そしてこの店の中では外の世界とは異なる時間が流れていることがが分かる。

 最初の50ページでここまで話が展開する。現実ではありえないような謎が提示され、それが合理的に解決されるならミステリーで、ありえないできごとが起こったものとして話が進むならファンタジーだとすると、この作品はファンタジーだ。

 ファンタジーの場合、非現実的な設定の中、どれだけ読者に小説の中の世界に感情移入して読ませるかがポイントだが、そのあたりはさすがにうまい。ただ、ところどころ細部の設定や展開が粗い所があり、興ざめしそうになるときがある。その辺は気になるのだが、最後まで一気に読ませるところはさすがだった。

シャッターのおりた店

現在と過去

 この作品は、ある空間において現在から過去へのタイムスリップが起きるというものだ。この手法を用いた作品は他にもあるのだろうが、やはりどれだけその世界を読者が実感できるかがポイントだ。

 私が唐突に思い出したのは、前にこのブログでも取り上げた『トムは真夜中の庭で』というイギリスの児童文学の名作。この作品はアパートの裏庭が、真夜中に過去にあった庭園に変わり、トムがその中に入り込んでいくという話だが、最終章でその秘密が明かされる部分がすばらしい。再読すると何気なく最終章への伏線が前半にあったりする。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』では、小説の中盤でその秘密が明かされ登場人物たちも自覚する。ここで問題なのは、3人の回答がその人物の過去の行動に影響を与え、それがその人物の現在の姿も変えるということで、これはよく言われるタイムスリップもののパラドックスだ。ただ、そこを考えすぎたらこの設定は成り立たなくなってしまうので、あまり突っ込まない方が楽しく読めるのだろう。

 この話題について書くといくらでも長くなるので。これくらいで。

川の流れる裏通り

☆下の写真2枚は西御坊駅周辺です。