ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 最近読んだ本 2024年 其の一

姫野カオルコ『昭和の犬』

 今日は年が明けて初めての読書の話題。最近読んだ本から2冊。

 1冊目は姫野カオルコの『昭和の犬』。

 名前は知っていたが、今まで読んだことがなかった作家だ。直木賞受賞作で、ブックオフの100円コーナーで見つけたので一度読んでみようかと思い買ってみた。

 連作短編の形で、それぞれの章の題名が、「ララミー牧場」「鬼警部アイアンサンド」といった、その頃にテレビで放送されていた外国ドラマの題名となっていて、時代を表している。

 主人公の柏木イクには作者自身の姿が投影されており、一人の少女が家族や周りの世界との関係にとまどいながら、成長していく姿が、その時々にそばにいる犬たちとのかかわりを通して描かれている。自伝的な小説ではあるが、主人公への距離の取り方が絶妙で、たいへん引き込まれた作品だった。

 また、主人公が年齢を重ねるとともに、変化していく昭和後半の時代の空気が漂ってくるようで、たいへん懐かしく感じられた。時代の空気といっても、激しく動く時代の表に浮かび上がっているものではなく、平凡な人生を送る人々の生活の日常の中に流れているものだ。

 主人公は作者と同じ昭和33年生まれで、私よりは少しだけ上だが、ほぼ同世代ということになる。この小説の前半4章に描かれている昭和40年前後というのは、まだ戦争が終わって20年くらいで、そこからの時代の変化は大きかったが、その中に生きる人間の人生の大半は、いつの時代も変わらず流れていく時間の中にあった。例えばテレビでよく放送される昔を振り返る特番などで、東京の高級ディスコで踊り狂う若者の姿がバブルの時代の象徴のように映し出されたりするが、それはほんの一握りの人々の姿だったわけで、この小説には時代の中で生きる、自分と等身大の人々の姿が描き出されているようだった。

姫野カオルコ『昭和の犬』

中村文則『掏摸』

 2冊目は中村文則の『掏摸』。

 中村文則の本も今まで読んだことがなかったが、最近この人の文をどこかで読むことがあって興味を持った。芥川賞受賞作家で、純文学でありながらサスペンスやミステリーの要素の強い作風だということで、1冊選んだのが、代表作の一つで比較的短い作品だった『掏摸』。

 主人公の「僕」は天才的な腕を持つスリだ。ストーリーはもちろん創作だが、文庫本のあとがきによると、主人公の内面に存在する、子供時代に見た遠くに見える塔のイメージは作者自身の心象風景としてあるもので、それがこの小説の核になっているということだった。

 「僕」は昔の仲間とのかかわりで、木崎という男が支配する闇組織に引きずり込まれ、命を賭けた仕事を否応なしに引き受けさせられる。一方でスーパーで母親に万引きをさせられている子どもと出会い、その親子とかかわりを持つようになる。木崎の正体や組織の実態、「僕」のかつての恋人の佐江子との関係など、具体的には描かれておらず、読者の想像に委ねられている。テンポよく話は展開し、最後に主人公が死を目の前にした絶望的な状況に置かれたところで終わる。

 読んでみて、主人公がスリを働く場面の状況やその心理はリアルなものとして、切迫感をもって伝わってきた。また万引きをさせられている子どもと関わるところもうまく描かれていた。ただ、木崎という人物の描き方がやや物足りなかった。他人の運命を支配することに至上の喜びを感じるという木崎の話すエピソードが、どこか作り物めいた感じがして、サスペンスとしての緊迫感が高まっていかないように思えた。

 全体的にはおもしろく読めた小説だった。もう1作読んでみようかと思った。

中村文則『掏摸』