ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだミステリー ~ 2024年 ②

東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』

 今日は読書の話題で、最近読んだミステリー2冊。

 ミステリーも同じ作家の作品を読んでばかりいるので、新規開拓と思って読んだのが、東川篤哉の『謎解きはディナーのあとで』。2011年の本屋大賞でベストセラーというのでブックオフで買ってみた。

 連作短編集で、50ページほどの話が6話収録されている。話の組み立てはほぼ同じパターンで、宝生麗子という大金持ちのお嬢様刑事が、同じく大企業の御曹司の風祭警部の下で事件を解決しようとするが、行き詰まってしまう。そして宝生家の執事の影山に麗子が相談し、影山が鮮やかに事件を解決するという話だ。

 普段読書をしない人でもストレスを感じない文章で、スイスイ読んでいける。感覚的には読書というより漫画の単行本を読む感じで、麗子と影山や風祭警部のやりとりも、テレビのコント風のドラマを見ているような気分になる。殺人事件が起こるが、家族や友人を殺された登場人物の心理も深刻に描かれることはない。こういった読みやすさが、ベストセラーとなったゆえんなのだろう。

 読みかけた時、メタミステリーと呼ばれる作品かと思った。メタミステリーといえば、東野圭吾の『名探偵の掟』がたいへん好きな作品なのだが、そうではなく、執事の影山が麗子の話を聞いただけで犯人を推理するという、アームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)タイプのミステリーだった。これは昔からある手法で、探偵(影山)が推理を披露する前で小休止して、読者も推理を楽しむことができる。

 私の感想を書くと、なるほどと思ったのが、第1話に出て来る、被害者の女性の行動に対する推理、それから第4話の事件の起きた一家の行動や発言の違和感をとらえた推理、この2つくらいで、他の話はかなり展開に無理があると感じた。こういった話は謎解きゲームとしての質がポイントになってくるわけで、そこに物足りなさを覚えた作品集だった。続編が出ているが、もういいかなと思った。

東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』

宮部みゆき『希望荘』

 2作目は宮部みゆきの『希望荘』。宮部みゆきの作品は近年になって読み始めたので、ミステリーは長編しか読んでいない。一度短編集をと思って買ったのがこの『希望荘』。シリーズ物だったということは、読んでいる途中で分かった。前3作は長編で、そこで探偵役の杉村がすでに登場しているようだが、前作を読んでいなくても十分楽しめる。

 短編集といっても500ページほどの文庫本に4作品なので、一作一作のボリュームがある。2011年の東日本大震災前後の東京を舞台にしており、上に書いた東川篤哉の作品とは対照的に、時代の空気や現代社会に生きる人間の背後にあるもの、そして個々の登場人物の心情がしっかりと描かれ、話が重層的に展開していく。謎解きだけでなく、人間ドラマとして読み応えのある作品が揃っている。

 それでは簡単に4作品の感想を。

「聖域」

 姿を消し死んだと思われていた老婆の生きていた姿を見たという目撃があり、その真相を確かめるよう、杉村が依頼を受ける。「スターチャイルド」というスピリチュアルな組織に入っている女性たちも絡み、話は意外な方向に展開していく。ただ、謎解きとしての結末はやや物足りなかった。

「希望荘」

 施設に入っていた父が、過去に人を殺したという告白を残して亡くなり、その謎を解明するよう杉村が依頼を受ける。父の言葉を元に35年前の殺人事件を調査していく中で、ある一つのヒントから父の発言の謎が解ける。前半で何気なく描かれていたことが伏線となっていて、それらが最後に結び付いて一つの事件が解決していく。人間の心の闇が見事に描かれた作品だった。

「砂男」

 人気の蕎麦屋を営む夫婦がいて、その主人が失踪する。不倫相手との駆け落ちと思われたのだが、捜査する中で、裏に隠された事実が分かる。そしてさらに最後に意外な結末が用意されている。私が最初に読んだ宮部みゆき作品が『火車』で、構造は似たところがある。人間を描いた作品としては読み応えがあったが、結末は少し無理がある感じがした。それから、杉村の恩人でもある蛎殻昴氏のキャラクターが、この作品を読む限りではあまり好きになれなかった。

「二重身」

 母の付き合っていた男性が消息不明になったが、その行方を捜してほしいという依頼を少女から受ける。男は3.11の前日に東北に行くと告げており、震災後の混乱の中、捜索は困難だと思われるが、意外な結末が待っている。この作品のトリックは古典的なものだが、用い方が素晴らしいと思った。また自分の不安定な心をもてあましている依頼人の少女と、それを受け止めてやる杉村とのやりとりもいい。4編の中でいちばん好きな作品だった。

宮部みゆき『希望荘』