ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 青春18きっぷの旅と読書 ④

『おそろし~三島屋変調百物語事始』

 今日は読書の話題。

 青春18きっぷで日帰り旅をする時は、必ず列車内で読む本を用意する。今回は、先日姫路に行った時に読んだ本。宮部みゆきの『おそろし~三島屋変調百物語事始』について書いてみる。

 宮部みゆきの本は、この前『火車』を読んで、続けて読みたくなった。表現力はさすがで、文体も相性がよかったので、もう一冊と思った。『火車』がミステリー系だったので、次は時代物をと思い、買ってみたのが「三島屋変調百物語シリーズ」。シリーズものなので、まず最初からと思い買ったのがこの本。

『おそろし~三島屋変調百物語事始』

感想

 ここからは感想。

 文庫本を開くと目次に五つの題名が記されているので、連作短編の形式であることが分かる。まず、第一話の「曼殊沙華」について。冒頭で話が語られる舞台となる三島屋、そして話の聞き手であり主人公でもあるおちかの身の上が描写される。宮部みゆきの文は、時代物になるとまたミステリーとは違った趣きがあり、自然に物語の中に引き込まれていく。第一話は連作の発端となるだけに、たいへん丁寧にプロットを組み立てて書いている印象があった。

 おちかは主人伊兵衛の姪であり、なにやら訳ありの様子だが、彼女の境遇については詳しく明かされず、最初の話し手である藤吉が登場する。藤吉の話を聞く中で、おちかは自らの不幸な出来事を思い出すが、ここでもまだその顛末が明かされることはない。そのあたりの匙加減もいい。藤吉とその兄の物語は、人情話的な雰囲気も漂わせながら進む。ふと以前読んだ東野圭吾の長編を思い出したが、そちらは現代ものなので着地点はまったく違う。第一話は題名となっている「曼殊沙華」に潜む怪異譚的な雰囲気を残し、自らの境遇を思うおちかの心を描いたところで、次の話への余韻を残しながら終わる。

曼殊沙華(去年撮ったもの 奈良県)

 第二話から、おちかが百物語の聞き手となる。私は第一話から四話の中で、第二話の「凶宅」がやや話に入り込めなかった。怖い話であるが、他の話では怪異的なものが登場人物の心の在りようから出ているのに対し、この話は、屋敷そのものが怪異の源となっている。やはり人間の心がいちばん怖いのである。第三話の「邪恋」で、おちか自身の物語が彼女の口から語られる。第四話の「魔鏡」は、お福という女性によって語られる鏡にまつわる怪異譚。この二つの話は、悲劇が起きるまでの登場人物の心理がしっかりと描かれており、読んでいて引き込まれていくようで、大変よかった。

 第五話の「家鳴り」は、おちかが兄の喜一と再開する場面から、第二話で登場した清太郎が三島屋を訪れ、それまでの四つの話が合流するような形で大きく展開し、結末へと向かう。このあたりはさすがの筆力なのだが、話の持って行き方としてはかなり強引な感じがした。百物語のはずだが、ここで大団円にして終わりという印象。

 第五話で区切りがついたように見える連作だが、続編が次々と出ていて、人気もあるシリーズとのことなので、また読んでみたいと思った。

姫路市立水族館のクラゲ