ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 最近読んだ本 2023年 其の五

初めての作家の本を買う

 今日は読書の話題で、最近読んだ本の感想。

 このところ、今まで読んでいなかった作家の本を読んでいる。若い時は本屋に行って本棚をなんとなく眺め、これはとピンときた本を買うと、大当たりだったということがよくあったのだが、年を重ねるにつれて本を選ぶ勘が鈍ってきて、外れが多くなってきた。

 というわけで、最近は直木賞をとった作品から読んだりしている。そんなに外れはないだろうというきわめて安直な選び方だ。というわけで、今日はその選び方で読んだ本3冊の感想を。

馳星周『少年と犬』

 連作短編という形で書かれている。核になるのは1匹の犬で、「男と犬」から最後の「少年と犬」まで7編、すべて「○○と犬」という題名がついている。多聞というその賢い犬は最初に震災後の仙台に現れ、ある男に飼われるが、その後、違う人物の手に移り、次々と飼い主が変わっていく。犬と人間の心のつながりとともに、それぞれの人生が哀感をもって描き出されていく。

 私はどちらかというと犬派ではなく猫派なのだが、犬もいいなと思わせてくれるような1冊だった。犬派ではない私でもホロリときそうになるのだがら、犬好きの人なら号泣するかもしれない。それから、全編を通じてこの犬がいつも南に顔を向け、飼い主と別れた後は南に向かっていくという謎が示されていたが、ミステリー的なおもしろさがあってよかった。

馳星周『少年と犬』

池井戸潤『下町ロケット』

 池井戸潤は、人気テレビドラマ半沢直樹の原作者ということもあり、エンターテインメントに徹した作家というイメージがあった。『下町ロケット』もそういった意味でのおもしろい読み物という期待をもって読み始めた。

 プロローグとしてロケット打ち上げ失敗の場面があり、次の章から場面が変わる。ロケット開発の研究者として挫折し町工場の社長となった主人公が、大手メーカーの攻撃によって経営の危機に直面するが乗り切り、逆に大きなチャンスを迎える。話はテンポよく展開し、文章も読みやすい。

 私は読み始めて最初のうちは、たいへんおもしろかったのだが、4分の1くらい読んだあたりから、それほどでもなくなってきた。あまりにも登場人物がステレオタイプで、展開が読めてしまうのだ。それから、後半の山場で、主人公が会社に莫大な利益が入る話を断り、あえてロケット開発の夢を追おうとして賭けに出て、従業員と対立する場面があるのだが、私は主人公が自分勝手なやつに思えてしかたなかった。つまり主人公の思いに感情移入できなかったのだが、このあたりは読む人によってとらえ方は違うのだろうと思った。

池井戸潤『下町ロケット』

島本理生『ファーストラヴ』

 女子大生による父親殺しというショッキングな事件が起こり、臨床心理士である主人公の真壁由紀が取材のために事件に関わっていく。由紀自身や裁判の弁護人である由紀の義弟の庵野迦葉も含めて登場人物がすべて心に傷を抱えており、家庭内の性的虐待やパワハラといった深刻なテーマを中心に据えて話が展開する。

 文章には力があり、読みごたえがあった。ただ、ミステリーとして読むと展開にちょっと無理がある印象だった。特に事件の真相が明らかになるところが、あまりにも唐突な感じがした。いい小説だが、ミステリーと言う枠組みが邪魔しているように私には思えた。

島本理生『ファーストラヴ』