寒い朝
今朝はかなり冷え込んだ。朝の散歩に出ると、空き地の枯草の上が霜で白くなっている。これで最低気温が1℃くらいのようだが、奈良は冬が寒いので、1月、2月には氷点下になる日が多い。まだまだ寒さは厳しくなるようだ。
畑の果実や野菜も取り入れが終わったが、夏の間、案山子代わりに棒にくくりつけてあった古いTシャツや帽子だけが残されている畑がある。この季節になると必要もないのだが、取り込むのも面倒なのだろう。薄暗い時に見ると人がいる感じに見えぎょっとする。思わず不吉な連想をしてしまったのだが、書くのはやめておこう。
江戸川乱歩
今日は読書の話題。ドイル、ポー、クリスティと海外のミステリーの話を続けたので、日本のミステリーを話題にしようと思う。
日本のミステリー作家と言えば、忘れてはならない作家が江戸川乱歩だ。本名が平井太郎という、ミステリーの巨匠としては思わず笑ってしまうほどの平凡な名前なのだが、エドガー・アラン・ポーをもじってペンネームとしたのは、あまりに有名なエピソードだ。
乱歩の作品は、後期の通俗的な長編はあまり読んでいないが、初期の短編はほぼ読んでおり、たいへん面白かった。下に写真を載せてある春陽文庫で、中学生から高校生くらいに読んだと記憶しているが、「心理試験」「一枚の切符」「二廃人」「赤い部屋」など、切れ味の鋭い推理小説の醍醐味を味わうことができた。
乱歩といえば探偵は明智小五郎だが、初期の作品の明智小五郎は、やせていて、歩くときに変に肩を振り、もじやもじゃの髪の毛をかき回す癖があり、服装などいっこうにかまわないという、風采の上がらない男として描かれている。後に少年探偵団シリーズに登場する明智は、怪人二十面相と対決する超人型の探偵となっており、初期の作品とは対照的である。
蟲
また、後に読んでたいへん印象に残ったのが「蟲」で、これは凄いとしかいいようのない作品であった。内気で孤独な主人公の男が、女優となっていた初恋の女性に恋い焦がれ執着し、ついには自分のものにしようと殺害してしまうのだが、その殺人に至るまでの心理描写、そしてその後の男の行為の描写が秀逸である。主人公の男の行為は異常そのものなのだが、私は引き込まれて読んでしまった。個人的にいちばん乱歩らしい作品を一作選ぶならこの作品だ。乱歩には、土蔵に一人こもってろうそくの明かりだけをともして小説を書いていたという鬼気迫る逸話があり、さすがにこれは創作だろうが、さもありなんと思わせるような世界である。
下の写真は角川文庫。表題の「悪魔の紋章」は、初期の作品と違い読者サービスを意識して書かれている。他に「柘榴」「鬼」の2作品が収録されているが、私は「柘榴」が印象に残った。