ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

ミステリーの思い出⑪ ~ 松本清張 其の三

雨の朝

 今日は朝から激しい雨で、散歩はなしにした。戻り梅雨が明けたと思ったが、今週いっぱいは天気がぐずつくようだ。朝の散歩がなければ話の種もないので、今日は読書の話題でも。2週間前の松本清張の続き。

またまた松本清張

 松本清張の話は2回で終わるつもりだったが、以前に読んだ本を引っ張り出して再読していると、やはりいい作品が多い。ということで、もう1回清張について書くことにした。

 清張の短編は、すべて推理物というわけではないが、推理物に分類されるものであっても、一般的な優れた小説の延長線上にあるものが多い。その大きな要因は、犯行の動機(犯行に至るまでの心理)が読者に納得できるようにしっかり描かれていることだろう。優れたミステリーの魅力は、斬新なトリックや犯人と名探偵との知恵比べ等々があり、それを成立させるために現実離れした状況設定がなされている作品もある。また、そういった方向で書かれた名作も古今東西数多いが、清張の作品はそうではない。

 大半の人間は、殺人を犯さずに一生を終えるし、そういった恐ろしい犯罪とは縁遠い所で過ごすことになると思っているだろう。しかし一歩間違えれば殺人者になる可能性もある。そういった日常生活のすぐ裏に潜む落とし穴を描いた作品も多い。

『土偶』

 短編集「死の枝」収録の『土偶』という短編がある。前回と同様、ここからは作品の内容に触れるので、今から読む方で内容を知りたくない方は飛ばしてください。

短編集「死の枝」

 戦後、ヤミ商売で金持ちになった主人公の時村勇造は、愛人を連れて東北の温泉街に遊びに来ている。朝、一人で温泉街を出て散歩している時、都会風の若い女を見かける。勇造はちょっと話をしてみたいと思い声をかけてみたのだが、女は勇造のいかつい顔つきや体格を見て、襲われると勘違いして、大声で助けを呼び走り出す。誤解を解こうとした勇造は女を追うが、女は更に大声を出す。痴漢と間違えられて警察に突き出されたら困ると思った勇造は、夢中で女の口を塞ぎ雑木林に連れて行くが、気づいたら女は絶命している。勇造は逃げようと雑木林を出るが、そこで女の連れらしい若い男と出会う。現場を見られたら困ると思った勇造は、止めようと男に飛びかかり、思わず男の命も奪ってしまう。

 事件は迷宮入りとなり、勇造はヤミ商売をやめて従業員を数多く抱える店の主人として社会的地位も得るのだが、事件から12年経って、あることから勇造に疑いの目が向けられ、破滅への道を歩むこととなる。ざっとこんな話だ。

 この話の中心は、勇造のある行為から犯罪が暴かれる、結末の部分にあるのだが、私が印象に残ったのは殺人を起こすまでの前半部だ。気楽な温泉旅行に出かけている男が、殺意を抱いたわけでもないのに、偶然のできごとから、わずかな時間に二人の男女の命を奪う殺人者になってしまう。殺人に至るまでの心理や行動が自然に描かれていて、誰でも殺人者になり得るという感を覚えてしまう。怖い小説なのだ。

話は変わって

 前にも紹介したが、下の写真は私の散歩コースにある、どう見ても行き止まりであることが明らかな場所に掛けてある「この先行き止まり」の看板。何かちょっと不気味で横を通るとなぜか気になってしまう。

この先行き止まり