雨が小休止の朝
今日は朝から雨かと思っていたのだが、起きて見れば夜中の雨はやんでいる。雨は午前中小休止で午後から本格的に降り出すらしい。というわけで朝の散歩に出かけた。田植えに備えて田起こしがされた耕作地には昨日の雨で水が溜まっているが、東の空の雲間からは薄日がのぞいている。
原尞のイメージ
今日は久しぶりにミステリーの話でも。昨日、一日中雨で家で過ごしていた時、昔読んだ本を再読したのだが、それが原尞の『私が殺した少女』だった。そこで原尞を取り上げてみる。
原尞はきわめて寡作であることで知られている。1988年デビューの作家だが、今までに発表したミステリーが長編5作、短編集1作のみで、普段何をしているのかと思うくらいである。作風はチャンドラーの影響を受けたハードボイルド系で、単行本を買うと作者の写真が載っているのだが、作品のイメージと作者の写真がみごとに合致している作家だ。作品は、最初の長編3作と短編集を読んだが、長編ではいちばん良かったのが『私が殺した少女』だった。また短編集『天使たちの探偵』もなかなか良かったので、その2作について。
『私が殺した少女』
刺激的な題名が付けられたこの作品は、直木賞受賞作ということで買って読んでみた。原尞の2作目の長編である。文章もプロットもしっかりと練り上げられており、読みかけたら途中でやめることができない。探偵沢崎は一本の電話がきっかけで、ある少女の誘拐事件に巻き込まれ、身代金を犯人の元に運ぶという重責を担うことになる。ところが少女は殺されてしまい、彼は少女の死に自責の念を抱きつつ犯人を追っていく。
警察やヤクザ、夜の世界の人々との絡みもあり、その中でぶれることなく自分の流儀を貫いていく沢崎の格好良さが際立っている。書かれたのは年号が平成になった年だが昭和の空気が色濃く漂う作品だ。沢崎が吸う煙草は両切りピースだが、喫煙人口自体減っている今、両切り煙草を吸う人間などいないだろう。(当時もあまりいなかった気がするが・・・)
『天使たちの探偵』
6つの短編が収録されている。事件を解決するのはお馴染みの探偵沢崎で、すべて少年や少女が事件に関係している。どの作品もミステリーとしてしっかり作り込まれている秀作で、読後の手ごたえ十分の短編集だった。少し感想を。
冒頭の作品「少年の見た男」では、母親を守ってくれという小学生の少年の依頼者に沢崎が雇われてしまうが、話は思わぬ展開を見せ、さらに意外な結末が待っている。謎解きの面白さを堪能できる作品。「子供を失った男」「歩道橋の男」は、沢崎という人間が醸し出すハードボイルドタッチの雰囲気を遺憾なく味わうことのできる作品。私が6篇のなかから選ぶとするとこの3篇か。
映像化は?
ところで、私の記憶では、原尞の作品が映画やテレビドラマになったことはないはずだ。作品の内容からすれば映像化されたものを見てみたい気もするが、作者のこだわりがあるのだろう。映像化されるとしたら誰が沢崎探偵を演じるのだろうか。