ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだミステリー ~ 2024年 ①

東野圭吾『夢幻花』

 今日は読書の話題で、最近読んだミステリー2冊をまとめて。

 1冊目は東野圭吾の『夢幻花』。10年ほど前の作品だ。東野圭吾は昔からよく読む作家だが、好きな作品とちょっと肌に合わない作品がある。『夢幻花』は好きな方のタイプの作品だった。

 読み始めから、いくつものエピソードが語られ、複線的に話が進んでいく。最初にどこかで起こった衝撃的な通り魔殺人事件。次に蒲生家の朝顔市にかかわる奇妙な習慣と、蒲生家の次男蒼汰と交際を始めながらも連絡を絶った伊庭孝美の謎。そして秋山梨乃の兄尚人が謎の自殺を遂げ、梨乃の祖父周治が殺害される。文庫本で500ページ近い小説の最初の50数ページでかなりの出来事が起こり、読んでいて一気に物語の中に引き込まれる。

 ここから話は殺人事件の捜査が中心となり、そこに花好きの周治が育てていたという、世の中に存在しない黄色いアサガオの話が絡んでいく。刑事の早瀬が事件の捜査にあたるが、梨乃と蒼太の二人も真相を追いかけ、そして蒼太の兄の要介も真相究明に乗り出していることが分かる。

 章ごとに視点が蒼太から梨乃、そして早瀬と入れかわっていき、登場人物も多く、小さな謎が各所に散りばめられている。つまりかなり複雑な話なのだが、読んでいてストーリーの展開が頭にすっと入ってくるのは、かなりプロットを最初にしっかり組み立ててあるのだろう。

 前半に散りばめられていた様々な謎は最後にはすべて解決されている。また、たとえば早瀬刑事の息子裕太が万引き犯に間違えられたとき、周治が悪を見逃せない正義感を発揮するといったことが、犯人が犯行に及んだきっかけとなる周治の行動に結びつくといった具合に、何気ないエピソードが後のできごとの伏線になっている。話の中心となっている夢幻花の謎はそれほど意表を突いたものではなかったが、なかなかおもしろく読めた作品だった。

東野圭吾『夢幻花』

横山秀夫『ノースライト』

 2冊目は、横山秀夫の『ノースライト』。4年前の出版だが、その10年以上前、雑誌に連載されていた作品を改稿したものだ。

 横山秀夫の作品は以前よく読んでいて、家に文庫本で十数冊ある。警察組織の中の人間関係に焦点を当てて書かれたいわゆる警察小説や、新聞記者が主人公のものなど、昭和の雰囲気が漂う作品だった。展開がやや強引なところや女性の描き方が男目線のステレオタイプなところがあるのだが、読み物としてはとてもおもしろく、本屋で見つけたらいつも買っていた。長編もいいが、個人的には「D県警シリーズ」などの短編が、緊迫感をもって読了できて好きだった。

横山秀夫の警察小説

 さて、『ノースライト』。本の紹介に「横山秀夫作品史上、最も美しい謎」とある。文庫本で540ページのボリュームある作品だ。

 主人公は建築士の青瀬。「あなた自身が住みたい家を建ててください」との依頼を受け、全身全霊を傾けて設計した信濃追分のY邸だが、訪ねてみると、そこには人が住んだ形跡すらない。そして家の2階の部屋に置かれていたのが、ブルーノ・タウトの作品と思しき椅子。ここが謎の出発点となり、青瀬は施主である吉野の行方を探そうとする。

 物語は青瀬の生い立ちや前妻・娘との関係、美術館建設コンペに参加する建築事務所の人間模様にも及び、ヒューマンドラマとしてふくらんでいく。一方で吉野の行方探しはなかなか前に進まない。

 末尾の参考文献からも分かる通り、建築業界のことやタウトのことなど、かなり入念に下調べし、文章を練り上げ、時間をかけて書かれた小説という印象だった。ただ、吉野失踪の謎の解決という中心となる部分が弱い感じがした。500ページを超える本格ミステリーなら、殺人事件が謎解きの中心にきてほしいところだ。またタウトについての記述も、もう少し短くてもいいのにという印象だった。したがって、この小説は、青瀬という主人公の自分探しから再生に至る、ミステリー風味の物語として読むべきなのだろう。ただ、コンペを巡る駆け引きなど、過去の横山秀夫の作品の空気を感じさせるところもあった。

 というわけで、力作ではあるが、私は昔読んだ警察小説の方がよかった。「文学的な香り」や「美しい謎」は、よそ行きの服を着ているようで、この作者には似合わない気がする。

横山秀夫『ノースライト』