ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 最近読んだ本 2024年 其の九

有吉佐和子『青い壺』

 今日は読書の話題で、最近読んだ本2冊の感想。

 1冊目は有吉佐和子の『青い壺』。有吉佐和子は昭和40年代から50年代にかけて活躍した作家で、社会問題をテーマにした作品も多い。一度読もうと思いながら、今まで手に取る機会がなかったのだが、たまたま本屋で文庫の新刊が出ていたので買ってみた。

 連作短編集という形で、無名の陶芸家が作った青磁の壺が、様々な人々の手に渡って行く中で、その壺を手にした人たちの身の回りに起こる人間ドラマを描いている。有吉佐和子の小説には、『複合汚染』『恍惚の人』といった社会で大きな反響を呼ぶような作品がある。『青い壺』はそちらの系統ではなく、軽めの「読み物」なのだが、当時の日本の家庭の様子が描かれており、読んでいて懐かしい気持ちになった作品だった。

 『青い壺』が雑誌に連載されたのは、昭和51年から52年で、私が高校生だった頃だ。世の中の状況で言えば、オイルショックが起こり物価は急上昇していくが、一億総中流社会という言葉のとおり、人々の生活が安定していった時代だ。個人的には、フォークソングがブームで、みんなフォークギター弾いて歌っていたとかいう記憶がある。受験戦争ということばはあったが、それを切り抜けたら未来はなんとかなると気楽に思っていられるような頃でもあった。

 この小説を読むと、当時はまだ古い価値観というものが世の中の中心だったという気がする。風俗や人々の考え方も今とは違う。第三話の若い男女の見合い話を進めようとする女性の話。第四話の兄弟姉妹間の相続争いの話。ちょうどこの時代のホームドラマにありそうな場面でもある。また、第六話では、酒場で海軍上がりの客どうしが話を交わすといった場面がある。昭和50年頃なら、軍隊を経験した人たちがまだ現役世代にいた。

 全部で十三話まであるが、登場人物が入れ替わり、読んでいて飽きることがなかった。例えば第五話。キヨというお婆さんが緑内障で両目が見えなくなり、長男の家で邪魔者扱いされ、妹の千代子のマンションで引き取ることになる。ところが眼科病院で診察を受けると、右目は白内障で会ったことが分かり、手術して目が見えるようになるという話。分かりやすい「いい話」なのだが、登場人物一人一人の描き分けや描写が上手く、すっと話に入っていけた。

有吉佐和子『青い壺』

青山文平『つまをめとらば』

 時代小説で、今まで読んでいなかった作家を新規開拓と思って買ったのがこの本。8年前の直木賞受賞作で、短編集というので読んでみた。私は時代小説はあまり読まないが、藤沢周平は好きで家に20冊くらいある。読みなれている作家ということもあり、読みかけると話の中にすっと入って行ける。

 『つまをめとらば』収録の短編は、江戸時代に生きる武家の生活を描いている。読みかけて初めの2作品、「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」までは、いまいち心に響かなかった。男女の情愛が描かれ、文章は巧みで、ストーリーも最後にひとひねりあるのだが、作られた話というのが先に立ってしまう。読んでいてどうも話にすっと入りこんでいけない。

 3作目の「乳付」あたりから作品との相性がよくなってきた。「乳付」は民恵という女性の視点で書かれている。格上の家に嫁した女性が子を授かるが、乳が出ず、夫の遠縁の女に乳付をしてもらうが、夫とその女が親しげにしているのに嫉妬してしまうという話。最後、民恵は心をすっきりさせて話が終わるのだが、そのきっかけとなる、民恵の父が姿を現して武家の勤めの大変さを話して帰る場面がよく、ここですっと話の中に入って行ける感じがした。

 4作目の「ひと夏」は、高林啓吾という部屋住みの次男坊が、知行百石を藩から下しおかれるが、赴任する土地が幕府の御領地の中に飛び地のように存在している厄介極まりない土地だったという話。これは話の設定がおもしろかった。

 5作目が「逢対」。「逢待」とは無役の武士が出仕を求めるために、登城する前の権家の屋敷に日参すること。主人公の竹内泰郎は無役を気にかけない旗本だが、ふとしたきっかけで、逢対に人一倍熱心な幼馴染の北島義人に、逢待への同行を頼み、長坂備後守の屋敷に一緒に赴く。逢待で目をかけられて役を得ることはごく稀なことだが、泰郎のもとに備後守から呼び出しがかかり、役を与えようという声がかかる。なぜ自分にと不審に思う泰郎に備後守は思いがけない話をする。その部分の意表をつくような話の展開がおもしろかった。

 最後の「つまをめとらば」は、五十を過ぎた友人同士の話で、そこに結婚問題がからむ。短編集の題名となっているだけあって味わいのある作品だが、私はその前の3作品の方がよかった。

青山文平『妻をめとらば』