ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

ミステリーの思い出 ⑬ 鮎川哲也

鮎川哲也

 今日は読書の話題で、ひさしぶりにミステリー。鮎川哲也を語る。

 鮎川哲也といえば、日本のミステリーの大御所で、私がたいへん好きな作家のひとりなのだが、今本屋で鮎川哲也の本をどれか1冊といっても、なかなか求めにくい。私の家の本棚には鮎川哲也の本が文庫で20冊ほど並んでいるのだが、だいたいは今から30年以上前に買ったものだ。当時からどちらかと言えば通好みの作家で、本屋の棚にずらりと並んでいるというタイプではなかった。だから、このブログを読んで、近くの本屋で1冊とはなかなかいかない。

 最初に鮎川哲也を知ったのは、鉄道ミステリーのアンソロジーである「下りはつかり」を買ってたいへんおもしろかったというのがきっかけだ。このシリーズは好評だったのか、何冊か続編が出たのだが、著名な作家からあまり知られていない作家まで、様々なタイプの短編が収録されており、しかも一つ一つの作品の後に作者や作品の背景を綿密に記してあるなど、編集をする上での気概のようなものが感じられる、たいへん充実したものだった。

下り「はつかり」

『黒いトランク』

 それでは、鮎川作品からいくつか選んで感想を。

 まず、代表作を1冊というと必ず上がるのが『黒いトランク』。列車で運ばれたトランクから出てきた死体を巡って、鬼貫警部、丹那刑事の二人が足を使って丹念に聞き込みを重ね、事件を解決しようとする。真犯人と思われる容疑者には鉄壁のアリバイがあり、それを崩すための推理の材料として列車の時刻表が示されるとなれば、本格推理の醍醐味がたっぷり詰まった作品である。

 私はこの作品を読んで、ミステリ―としてのおもしろさはもちろんだが、私が生まれる前の戦後間もない日本の風景が浮かび上がってくるような文章に、情緒を感じたものだった。私はミステリーであっても、好きな本は何回も読み、本をきれいなままとっておく趣味もない。『黒いトランク』は再読を重ねたので、かなり表紙がすり減っている。

『黒いトランク』

『黒い白鳥』

 さて、私の中でも鮎川作品の第1位は『黒いトランク』なのだが、第2位はいくつもあって難しい。『死のある風景』『人それを情死と呼ぶ』もいいが、あえて1冊あげると『黒い白鳥』。これも作品全体に漂う時代を感じさせる情緒も含めての感想。

 事件は線路沿いで男の死体が発見されたことから始まる。男は紡績会社の社長で、労働争議と新興宗教の二つの騒動に巻き込まれている。警察が捜査をするが挫折し、重要参考人も殺され事件が暗礁に乗り上げたところで鬼貫警部が乗り出す。この作品は結構長く文庫本で490ページあるが、なんとメインの探偵役の鬼貫と丹那が乗り出すのが247ページ目なのである。現代の週刊誌連載物などではあり得ない話だろうが、鮎川作品ではよくあるパターンで、私はそれも結構好きだ。それから、この話は大阪のある場所が事件の大きなポイントとなるのだが、さすがにミステリーの感想としては「ネタバレ」になるのでこれくらいに。

鮎川作品いろいろ