ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだ本 2026年 其の十九

鴻上尚史『青空に飛ぶ』

 今日は読書の話題です。鴻上尚史の『青空に飛ぶ』。

 鴻上尚史の本は、今までエッセイ系を4冊ほど読んでいてどれもよかった。特に『空気と世間』は、日本社会を支配してるものの正体を分かりやすく記してあり、今までぼんやりと考えていたことがクリアになった感じだった。

 『青空に飛ぶ』は9年前に書かれた小説だ。ブックオフで見つけて、さっそく買って読んでみた。

 話は、中学二年の萩原友人という男子生徒の話から始まる。(小説では一人称の「ぼく」)。「ぼく」はアメリカから帰国して、日本の中学校に入るが、クラスでは松田という少年がいじめの標的となっていた。松田は自殺し、いじめの標的はあるできごとをきっかけに「ぼく」に移り、それは陰湿で凄惨なものになっていく。教師は気づかず、「ぼく」は両親には言えず、自殺を考えるが、死の場所に選んだ札幌の病院で、九回出撃して生きて還って来たという元特攻隊員の佐々木友次の存在を知る。「ぼく」はなぜ、彼が活きることができたのか知りたいと思い、彼について書かれた特攻隊の記録を読み、佐々木に直接話を聞く。

 こういう話で、「ぼく」の章と佐々木友次の章が、交互に語られるというプロットになっている。作者が「あとがき」で書いているが、「ぼく」の章は創作だが、佐々木友次については事実に基づいているとのことだった。

 読み終わった感想は、久しぶりに感情が揺さぶられるような読書体験をしたということだった。愚かな指揮官に逆らって生きることを選んだ特攻隊員の物語といじめに苦しむ少年の物語がみごとに交わっている。

 戦時中の特攻隊員の記録を読んだことはなかったが、戦争というものの愚劣さに対する怒りがかきたてられ、そのために命を捨てなければならなかった人たちの運命の理不尽さが迫って来た。一方で、特攻命令に逆らい、死なずに戻ってきたことに対して、理解する兵士たちもいたということは救いだった。逆に当時の新聞などは、嘘の情報を流し、戦意高揚をかきたてる媒体に成り下がっている。

 「ぼく」のいじめの記述については、これだけ壮絶ないじめに対して親や教師は一切気づかず、クラスで完全に孤立無援になってしまうといったあたり、誇張して描いている部分もあると感じた。ただ、現実に、いじめによる自殺者が存在するという事実があるということは、それに近い実態はあるのだろう。

 最後、両親がいじめの事実を知ることとなり。「ぼく」は遠い沖縄の学校に転校することになる。いじめに対抗して打ち勝つという結末でないのがよかった。理不尽なものから身をかわして逃げることも必要だという意味で。

 「ぼく」の物語の続きを読んでみたいと思った小説だった。

鴻上尚史『青空に飛ぶ』