ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだ本 2026年 其の十八

橋本治『夜』

 今日は読書の話題です。1冊目は橋本治の『夜』。

 2008年に書かれた現代小説の短編集で、60ページほどの作品が4編、100ページほどの作品が1編収録されている。

 巻末に作者自身による「あとがき」があり、「女の視点で見た男」を書くものにしようと思ったと記されている。ちなみに、この「あとがき」は、きわめて丁寧な自作解説となっている。

 すべての作品が不倫、そして三角関係を題材にして描いている。「暮色」は娘から見た父、「灯ともし頃」は妻から見た夫、「夜霧」は妻の女友達から見た夫、「蠟燭」は愛人から見た男。最後の「暁闇」だけは、男性の同性愛を描いている。

 橋本治の短編には、もっと読み物としての面白さが前面に出た作品もあるが、この短編集は、どの話も作者独特の分析的な心理の描写が中心となっていて、読みながらちょっと置いてきぼりにされた感じがあった。もちろん、それこそが橋本治の文学とも言えるわけだが、この作品集の前に書かれた『蝶のゆくえ』の方が、作品の中に入っていける感じだった。

 いちばんおもしろかったのが、最後の「暁闇」。これは、ゲイの男と「本来ゲイではない男」の同性愛関係を描いたもので、作者の面目躍如といったところだろう。作者自身が「あとがき」で、「源氏物語」の登場人物の関係がモチーフになっていることを記している。

 「あとがき」を読んだ後で、もう一度作品を読み直してみたいと思った。

橋本治『夜』

北杜夫『白きたおやかな峰』

 2冊目は、北杜夫の『白きたおやかな峰』。

 北杜夫は、中学、高校時代にいちばん好きな作家でよく読んだ。独特のユーモア漂うマンボウシリーズや、シリアスな小説では『楡家の人々』『幽霊』など。この『白きたおやかな峰』は未読だったが、この前ブックオフで文庫本を見つけ、さっそく読んだ。

 内容は、いわゆる山岳小説で、作者自身が昭和40年に、カラコルムの未踏峰ディランへの遠征隊に、医師として参加した体験が基になっている。したがって、登場人物の描写には色づけはあるが、記録文学的な色合いも濃い。

 叙述の形式は三人称多元視点で、隊長を始めとした登場人物それぞれの内面を描写している。ドクターは、作者自身がモデルで、滑稽味を醸し出すような描き方をしている。小説では、登頂の成否を読者に告げずに終えているが、実際の遠征では、登頂は成らなかったなかったようだ。

 読んでみて、作者自身の体験を基にしていることもあって、描写が具体的で、臨場感があった。特に終盤の、大自然に翻弄されながら、登頂を断念するかアタックをかけるかといったせめぎ合いは迫力があり、どうなっていくのかといった興味が湧いた。終わり方は、実際の登頂の結果を踏まえるとやむを得ないのかもしれないが、やや拍子抜けの感もあった。

 登場人物の内面の描き方は、全体的にやや浅い気がしたが、人間を描くというより、山に登るという行為を描いた小説と考えると、そうなってしまうのだろう。現実のモデルがいるということもあるのかと思った。コックのメルバーン、そして登頂に執念を燃やす増田の描き方は、人間味やアクの強さが出ていてよかった。

 ひさしぶりに北杜夫の小説を読んで、なつかしい気分になった。

北杜夫『白きたおやかな峰』