ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだ本 2026年 其の十五

小川洋子『妊娠カレンダー』

 今日は読書の話題です。まず、小川洋子の『妊娠カレンダー』。

 芥川賞受賞作で、書かれたのが1991年だから、もう35年前の作品になる。文庫本には『妊娠カレンダー』と、他に2つの短編が収録されている。

 半年ほど前に読んだ『完璧な病室』は、その少し前に書かれた最初期の作品集で、その感覚的かつ官能的な表現が過剰なまでに溢れていたが、この3編はより平易で読みやすい文体の中に、それがうまく溶け込んでいる印象だった。もともと文体や描かれている世界が好きな作家なので、気持ちよく読み終えることができた。

 それは個々の作品に対する感想。

「妊娠カレンダー」

 出産を控えた姉と同居する「わたし」が語り手。妊娠によって精神が不安定になり、わがままになっていく姉の世話をする「わたし」の中に、密かな悪意が芽生えていく。

 日記のような形で書かれていて、肉親の妊娠の観察記録を「わたし」が記しているように思える。五感に訴えかけてくるような感覚的な表現はすばらしいが、女性が読むと、また別の感想が生まれるのではないかと思った。

「ドミトリイ」

 題名の「ドミトリイ」とは学生寮のこと。主人公の「私」は夫がスウェーデンに赴任していて一人暮らしをしているが、学生時代に住んでいた学生寮を上京してきた従弟に紹介する。古ぼけた学生寮で、寮長の先生は、両手と片足を失っている。そして、「私」がいた頃よりさらにさびれ、学生が減っているその寮に従弟は入寮する。

 個人的には3編の中でこの話がいちばん好きだった。こういった廃墟めいた古ぼけた建物という雰囲気が好きなこともあるが、やはり感覚的な表現がすばらしい。それから、この話は読み物として、プロットがよく計算されているように思った。

「夕暮れの給食室と雨のプール」

 「わたし」が「彼」と同居するために飼い犬と引っ越してきた家に、宗教勧誘員らしき子供を連れた男が訪れる。ただ、彼はよく見かける宗教勧誘員とは雰囲気が違っていて、あっさりと帰っていく。そして「わたし」は別の日、小学校の裏門の前で給食室を眺める二人に出会う。そして男は「夕暮れの給食室」と「雨のプール」について話す。

 40ページほどの短い話で、ストーリーらしきものもないが、情景が目に浮かんでくるような話。ラストが少し明るい話だった。

夢枕獏『奇譚草子』

 もう1冊、夢枕獏の『奇譚草子』について簡単に。

 夢枕獏の作品は、アンソロジーの中の1編として読んだくらいだったので、一度お試しにと、ブックオフで出ていたこの掌編集を読んでみた。単行本として出たのが1988年だから、もう40年近く前の作品になる。

 200ページほどの文庫本の前半が『奇譚草子」で、これは作者が友人たちから聞かされるなどして耳にした奇妙な話を書き連ねていくという形式で書かれた話。2,3ページから長くても8ページの短い話が20ほど収録されている。肩の力を抜いて書いた作品という印象で、読みやすく、ちょっとした待ち時間に軽く読むのにいい感じだった。

 後半は10ページほどの掌編が9編収録されている。初期の作品もあり、出来にはばらつきがある感じだった。その中では、「おくりもの」「せつなくん」「ヒトニタケ」が良かった。

夢枕獏『奇譚草子』