ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだ本 2026年 其の十四

宮下奈都『羊と鋼の森』

 今日は読書の話題です。宮下奈都の『羊と鋼の森』。

 十年ほど前の本屋大賞の受賞作で、題名は知っていた。予備知識なしで読み始め、若いピアノの調律師の物語であることを知った。

 主人公は北海道の山と森に囲まれた地域で生まれ育った外村という青年。音楽に縁のない生活を送っていたが、高校時代、ふとしたことから学校のピアノを調律する板鳥と出会い、調律の世界に魅せられていく。

 外村は調律師養成の学校に進み、板鳥のいる楽器店で調律師として働き始める。そこで何人かの先輩や、魅力的な演奏をする双子の姉妹らと触れ合う中で、調律師をして成長していく。こういう話だ。

 ピアノの調律といえば、我が家にもピアノがあり、たまに調律師のお世話になる。かなり以前に、私が一人でいる時に、若い調律師が来て調律をして行った。その時、世間話をする中で、こういう話が出た。その人は高校時代野球部で、音楽とは全く関わりのない生活を送っていたが、何かのきっかけで調律師の世界に入ったという。周囲には音楽経験がある者も多かったが、調律の技術は別で、簡単に言えば「耳」と「腕」ということになるのだが、彼は同級生の中でもトップで、音楽をやっていても、全然「モノにならない」者がいる反面、彼は仕事としてやれているという。調律の腕は音楽経験によるわけではないというのが興味深かった。

 この小説の主人公の外村はそれとは違うタイプだが、音楽経験がなく、調律に魅せられたという点では似ていると感じた。

 文章は読みやすく、話の流れがすっと頭の中に流れ込んでくるような文体だった。読みやすくても、表現が稚拙に感じられ、文章に品がなくつまらない小説もあるが、そうではなくて、心地よく読み進めていける小説だった。

 ストーリーとしては、大きな起伏がある展開にはならず、主人公の周囲の人物も、それぞれ挫折や傷ついた過去を抱えているが、掘り下げて描くことはしない。たとえば、話の後半に、双子の姉妹の一人の由仁が、メンタルの病気で演奏ができなくなり、秋野が外村にピアニストをあきらめて調律師になった過去があることを明かす場面があるが、その苦悩に焦点を当てて描くことはない。また、主人公の外村は強い個性を持つ人間としては描かれず、外見や下の名前も小説内では書かれていない。

 作者があえてそういう描き方をしたのか、自然とそうなったのかは分からないが、この作品に関しては効果的だと思った。主人公の外村を強い個性を持たない人間として描くことによって、そういった青年の心を捉えた調律の世界、そして音の世界の魅力が自然に読者の心に伝わっていくのだと感じた。文庫本で260ページほどの、比較的短めの長編だったが、長さも適当だった。 

宮下奈都『羊と鋼の森』

鴻上尚史『ほがらか人生相談』

 もう一冊、鴻上尚史の『ほがらか人生相談』。

 小説ではないが、鴻上さんの本は、以前『「空気」と「世間」』を読んで、とてもおもしろく分かりやすかったので、ブックオフで安く売っていたのを見て、買った。月刊誌連載で、読者の相談に回答するという形式。

 買って帰ったその日に、家で2時間ほどで読み終えた。自分が普段から無意識に思っていたことや感じていたことを、整理して言語化してくれているという感じで、この本も「当たり」だった。

鴻上尚史『ほがらか人生相談』