ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだ本 2026年 其の九

恩田陸『木漏れ日に泳ぐ魚』

 今日は読書の話題です。まず、恩田陸の『木漏れ日に泳ぐ魚』。

 20年ほど前に出た、300ページほどの長編。登場人物は一組の若い男女だ。アパートの一室で、同居生活を解消して引っ越すことが決まり、最後の夜を二人で過ごそうとしているということが分かる。10ページほどの短い章で区切られ、章ごとに、男の視点と女の視点が入れ替わっていく。話はその夜の二人の内面の描写と会話のみで構成されている。

 ミステリー、それも叙述トリック系のミステリーの雰囲気を漂わせながら話は展開する。章が進むにつれ、読者は二人についてのいろいろな情報を知ることになる。二人(千浩と千明)は双子のきょうだいであること。母は、父が二人の誕生を知らないまま離婚したこと。千明は幼児の時によその家に貰われていって千浩と別々に育ったが、大学のテニスサークルで偶然いっしょになり、互いの関係を知ったこと。二人は同居するようになるが、きょうだいでありながら、恋愛感情に近い思いを抱いており、千明は恋人と別れることになったこと。

 離れ離れになる前の最後の夜、二人の繰り広げる心理戦の中心にあるのが、1年前の初夏の出来事だ。彼らは東北地方のS山地への旅に出かけるのだが、その時のガイドを務めた男性が二人の父親であった。そして、その男は山中で、崖から転落して命を失ってしまう。その瞬間を目撃していなかった二人は、互いに相手が男を殺したのではないかと疑っている。そして最後に事件についての真相と、二人の過去の意外な事実が明らかになる。ざっとこういう話だ。

 ミステリーと心理サスペンスの要素が入った作品で、全体的には私の好きな傾向の話だった。恩田陸の文章は相性がいいので、読んでいて飽きることがなかったし、二人の心理的な駆け引きの部分はおもしろく、引き込まれた。

 ただ、ミステリーとして読んだ場合は物足りない点があった。男の死の真相にたどり着くところで、結局二人が手を下していないことになるのだが、その推理の部分に飛躍があり、空想だけで片付けたような感じだった。この部分は話の核になるところなので、もう少し手を入れて描いてほしかった。ただ、男の死の一つの可能性を登場人物が推論しただけと思って読めば、そんなものかという気もした。

 また、彼女が実は千浩のきょうだいの千明ではなかったという事実が明らかになるところは、 前半にいくつか伏線があり、ある程度予想できたが、これも推論がやや安易な感じがした。東野圭吾の『むかし僕が死んだ家』のプロットが少し似ているが、ミステリーとしてはもちろん東野作品の方がいい。

 この作品は、ミステリーとしての謎解きを楽しむのではなく、恋愛小説または恋愛を核にした心理サスペンスとして読む小説だという印象だった。 

恩田陸『木漏れ日に泳ぐ魚』

いとうせいこう『想像ラジオ』

 もう1冊、いとうせいこうの『想像ラジオ』。いとうせいこうは、かなり以前に『ノーライフキング』を読み、これが2冊目だ。

 5章から成る話で、第1章で、杉の木のてっぺんに引っかかったままで、リスナーの想像力の中でだけ聴こえるラジオ番組をオンエアしている一人の男が登場する。流れに従って読んでいき、章が進むにつれて、この小説が東日本大震災を背景にした話であることが浮かび上がってくる。そして生と死という大きなテーマも。

 すばらしい小説だと思ったが、私の読解が追いついていない気がしたので、少し時間を置いて、もう一度読んでみようかと思った。

いとうせいこう『想像ラジオ』