ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだ本 2026年 其の八

西條奈加『善人長屋』

 今日は読書の話題です。西條奈加の『善人長屋』。

 時代物の軽くておもしろい読み物をと思い買ったのがこの本。西條奈加の本は『心淋し川』と『涅槃の雪』に次いで3冊目で、外れはない作家という印象だ。

 『善人長屋』は連作短編集で、40ページほどの作品が9編収録されている。登場人物は、善人ばかりが住むという評判から、善人長屋という二つ名が付けられている長屋の住人だが、実はみんな裏稼業を持つ悪党ばかりだ。

 物語は、長屋の住人のまとめ役となっている差配の儀右衛門(彼も質屋を看板に上げ、盗品を捌く裏稼業をやっている)の娘であるお縫を狂言回し的な役割にして展開する。叙述は三人称だが、基本的にお縫の視点から語られ、読者はお縫の眼を通して物語の世界を見ることになり、話が変わっても、すっと物語の世界に入っていける。

 長屋の住人は、悪党と言っても血なまぐさい悪事に手を染めることはなく、人情味も持ち合わせている。第一話の「善人長屋」でほぼ長屋の住人が顔を揃え、そしてそこに新たな住人として、加助という男が住み込むことになる。加助は、表向きは錠前職人だが、裏稼業として錠前破りをしている悪党だという触れ込みだったのだが、それは人違いで、加助は根っからの善人だった。

 第一話で舞台が整えられ、第二話以降はそこで様々な事件が起こる。発端の多くは、善人である加助が、他人の災難や不幸を放っておけず、次々と面倒ごとを背負って持ち込んでくることから始まる。長屋の人々は、お縫に促され、しぶしぶながら、裏稼業で鍛えた腕をふるい、事の解決に力を貸すことになる。

 人情味あふれる話が揃った短編集で、ミステリー風のトリックが用いられ、ひとひねりした展開の話が多く、そこそこおもしろく読めた。シリーズ物として続編が出ているようだが、読むのはこの1冊でいいかなという感じはした。

 それでは何編か選んで感想を。

「善人長屋」

 掏摸の安太郎の娘お小夜が大店の若旦那と婚約したが、お小夜は別の男の子を身ごもっていた。そのことを明かさず、お小夜の婚約を解消させるため、美人局を裏稼業とする唐吉、文吉兄弟が使っている美女おもんを若旦那に近づけ気を引き、若旦那の側から破談にするように持ち込む。話の最後で、やくざに追われたおもんが家の中から消え、実はその正体は文吉が化けたものだということが明かされるが、このあたりの展開がミステリーさながらで鮮やかだった。

「源平蛍」

 善人長屋の元の住人である鍛冶屋の源平老人が戻ってくる。源平が世話をしていた女の娘お恵は、杉屋という紙問屋に嫁いでいたが、店に出入りしていた浪人者と心中したという。ところが、情報屋の半造や文吉が調べると、お恵は義母と夫の策略で心中に見せかけて、殺されたということが分かる。源平はその復讐のため、杉屋に火を付ける。鍛冶屋の源平の裏商いは火事屋であり、軒を連ねる家があっても一切類焼させることなく、目当ての建物だけを焼き払うことで知られていた。最後、源平老人の裏稼業の描写と加助も絡んだ結末がよかった。

「夜叉坊主の代之吉」「野州屋の蔵」

 最後の二編はつながった話だ。富岡八幡宮の歳の市で、加助が火事で亡くしたと思っていた女房お多津を発見したことから話は始まる。一緒にいた文吉が女の後をつけるが、出てきた男たちに痛めつけられる。何か裏があるかと探るうちに、背後に夜叉坊主の代之吉という大悪党がいることが分かる。お多津が奉公する野州屋の蔵のからくり錠の話も絡み、最後には代之吉を追い払い、お多津は加助と対面することができるが、お多津は加助のもとを離れる。加助の度を過ぎた善人ぶりがずっと気にかかっていた儀右衛門は加助に理由を聞き、加助は子供の頃の自分の犯した罪を語る。加助の秘密が明かされたことで、締めくくりにふさわしい話となっていた。

西條奈加『善人長屋』