ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだ本 2026年 其の七

帚木蓬生『閉鎖病棟』

 今日は読書の話題です。帚木蓬生の「閉鎖病棟」。

 帚木蓬生は初めて読む作家だ。映像化された作品とのことだが、あまり名前も認識していなかった。ブックオフで新規開拓の作家の本を探していて、ふと目について買った。

 30年ほど前に書かれた作品で、題名が示す通り、ある精神病棟を舞台にしている。

 話はまず、3人の人物について語られる。冒頭の章では、こっそりと中絶手術を受ける中学生の少女島崎由紀。第2章では復員してきた父を自殺で失った梶木秀丸。第3章では家族に疎んじられ、納屋に火をつけ家を飛び出してしまった昭八。この3人は、第4章から展開する精神病棟での話でまた登場する。秀丸と昭八は入院患者として、由紀は不登校で通院する患者として。

 第4章以降は、登場人物の中の一人、入院患者であるチュウさんの視点から、話は語られる。叙述の視点としては、三人称一元視点となる。登場人物は、みんなさまざまな症状を抱えた長期入院者で、過去に凄惨な事件を起こした者もいるのだが、精神科医でもある作者は、特異な人間たちとして描くのではなく、患者に寄り添った目線で、その中で起きるできごとや人間模様を描いている。

 患者たちの大半は、退院のめどもたたない生活を送っているが、病院内でのレクリエーションの演芸会や遠足での外出を楽しんでいる。登場人物のひとりひとりが、個性を持った人間味あふれる存在として描かれており、作者の語りの上手さもあって、読んでいて話にどんどん引き込まれていく。

 話は全体の半分を少し過ぎたところで大きく展開する。院内で、重宗という傍若無人なふるまいをする患者が由紀を乱暴するという許せない行為を働き、憤るチュウさんに代わって、秀丸が重宗を刺殺するという事件が起きる。

 新しく赴任した女医の許可を得て、退院したチュウさんは、拘置所にいる秀丸からの手紙によって由紀の過去の秘密を知る。そして秀丸の裁判に証人として出廷し、心に思うことを隠さず証言する。その裁判所で由紀と再会し、彼女の前向きに生きる姿に心をうたれ、秀丸をずっと待っていようと思う。

 感想交じりのあらすじを書くと、こんな感じだ。

 一読した印象は、素晴らしい作品だと思った。精神病棟という舞台で起きる殺人という、重い題材だが、登場人物やそれぞれの場面がユーモアのある筆致で生き生きと描かれており、重苦しさを感じない。伏線の活かし方もみごとで、第1章の島崎由紀のエピソードが、ずっと心にひっかかりながら読んでいくのだが、終盤の方でそれが解き明かされる。

 終盤の展開は、読者としては、由紀と秀丸がどうなっていくのかというのが気になるところで、読後感からすると、あの終わり方がいちばんいいと思った。一つだけ引っかかったのは、最初の方で、秀丸が絞首刑が失敗に終わりそれで釈放されたというところで、さすがにこれはないなと感じたが、まあ、読み物なのでいいかと思った。

 ちなみに、この作品は山本周五郎賞を受賞している。個人的には、直木賞を受賞してもいい作品ではないかと思った。

帚木蓬生『閉鎖病棟』