ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだ本 2026年 其の一

葉室麟『川あかり』

 今日は読書の話題です。葉室麟の『川あかり』と西加奈子『さくら』

 『川あかり』は、時代物の長編を読みたくなって買った。葉室麟の作品は今まで3冊読んで、そんなに外れはないという印象がある。

 物語は、主人公の伊東七十郎という若侍が、大雨による川止めで途方に暮れている場面から始まる。七十郎は藩でいちばんの臆病者と呼ばれている男だが、藩の派閥争いの中心人物である家老甘利典膳の暗殺を命じられていて、典膳が川を渡って来たら、国に入る前に討たなくてはならない。七十郎は川明けを待つ間、木賃宿に宿泊して待つことになるが、そこで牢人の佐々豪右衛門、坊主の徳元、猿回しの弥之助、鳥追いのお若、遊び人の千吉という一癖も二癖もある人々と一緒になる。

 川止めが続く間に、いろいろな事件が起こり、七十郎も関わっていくが、彼はそのたびに悩み、気弱になる。また、そうしているうちに、七十郎は豪右衛門に尋ねられ、彼らに自分が刺客となった内情を打ち明け、また彼らの抱えている事情も知ることになる。そしていよいよ川明けとなり、典膳が供の者を連れて川を渡ってくる。豪右衛門たちは無謀だと七十郎を止めるが、七十郎は単身、役目を果たすために典膳に立ち向かおうとする。

 ざっとこういう話だが、上に書いた以外の藩の派閥争いと、同宿の五人の背景(彼らは流れ星という盗賊の一味であるが、その背景には事情がある)などが、複雑に絡み合い、登場人物も多く、結構いろいろな要素が詰め込まれた話だった。

 感想は、まず、読みかけて最初の4分の1くらいまでは、登場人物を作者が作って動かしているという感じが強かった。葉室麟は藤沢周平の流れを引く作家と言われているが、藤沢周平は作品の背後にある作者の姿を感じさせず、登場人物が自然と目の前に現れてくる。それに対してこの作品では、登場人物、特に同宿の5人に「作り物感」があった。これは前に『潮鳴り』を読んだ時も感じたことだった。

 ただ、中盤あたりから話がテンポよく動いてゆき、次第に話に入っていけるようになってきた。臆病者で情けない男を主人公にするというところから、コメディータッチで笑える要素もあり、話の展開には結構強引なところやご都合主義的なところ(例えば最後の七十郎が典膳を倒すところなど、時代劇風コントのような感じだった)もあったのだが、おもしろく読めた。文庫本の解説では、「心に強く迫る」感動を生む小説といった記述があったが、どちらかといえば、エンターテイメントとして楽しむのに、よくできた作品だと思った。

葉室麟『川あかり』

西加奈子『さくら』

 ブックオフで新規開拓で初めて読む作家を探していたところ、表紙が気に入ったので、この本を買った。題名は飼い犬の名前(小説中では「サクラ」)。

 小説は、語り手である「僕」と両親、兄、妹に一匹の犬が加わった家族の物語だ。初めて読む作家だが、若い頃の作品ということもあり、才気が溢れているような文章だった。感覚的な表現や刺激的な描写、それに斬新な比喩表現も多く、いろいろな要素が詰め込まれた文体なのだが、一気に読めてしまったのは、文章の流れの作り方が上手いのだろうと思った。

 ただ、個人的な好みから言うと、私は合わなかった。主人公とその兄妹のキャラクターが好きになれないというのがいちばんの理由で、登場人物に感情移入できない。したがって、感動はなかった。ストーリー上では、主人公の兄の死によって一家の幸福が壊れていくのだが、私は最初から、歪みを抱えた家族のように思えてしまった。そのあたりは作品との相性の問題なので、しかたないと思いながら読み終えた。

西加奈子『さくら』