小川洋子『完璧な病室』
今日は読書の話題です。小川洋子の『完璧な病室』。それに再読した本1冊。
小川洋子の短編集を読むのは、連作短編集的なものも含めて6冊目になる。今まで読んだ作品は2000年代に入って書かれたものが多かったが、この作品集には、作者の最初期に書かれた短編が4作品収録されている。
今まで読んだ作品に比べると、「読み物」より「純文学」の比重が大きい印象だった。どの作品にも、官能的で死の影が漂う独特の感覚的な表現が溢れ、小川洋子という作家の原風景ともいえるような世界が展開されている。それが最も表れているのが2つ目の「揚羽蝶が壊れる時」。簡単に言えば「認知症の祖母を施設に預ける孫娘の話」で、普通の読み物として書いたら、全く違う色合いの話になるはずだが、冒頭から生々しくグロテスクでさえある老婆の肉体の描写から始まり、その生理的な感覚が作品全体に流れている。
短編集の題名ともなっている「完璧な病室」は、病で死を前にした二十一歳の弟と姉である主人公の話。食物あるいは食べるという行為の描写が特徴的で、官能的な描写と相まって、「食べるという行為」と「性」が隣り合わせであることを感じさせる。
この2作品に比べ、「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」は読みやすい。感覚的な描写が過剰にならずうまく話の中に溶け込んでいて、後の作品への作者の歩みが示されているような気がした。ちなみに、この4作品は「揚羽蝶が壊れる時」「完璧な病室」「ダイヴィング・プール」「冷めない紅茶」の順に発表されている。 印象に残ったのは「ダイヴィング・プール」。物語の舞台は孤児院。主人公の少女は水泳の飛び込みの選手である純という少年に憧れを抱く一方で、リエという孤児に対して残酷な行為を続ける。主人公の境遇も含めて、いちばん読み取りやすかった。
私は基本、読み物として本を読むのだが、こういった文体や表現を味わう読書体験もいいと思った。

再読 ~ 橋本治『蝶のゆくえ』
橋本治の短編集を再読してみた。この前の『生きる歓び』に続いて『蝶のゆくえ』。現代を舞台にした短編集で。6作品が収録されている。すべて女性が主人公で、6作品の配列は主人公の年齢順だということは、巻末の作者自身による自作解説を読んで、改めて気づいた。書かれたのは「ほおずき」以外の5作品は2003~4年。前に読んだ『生きる歓び』の作品がそれより10年ほど前に書かれ、穏やかな雰囲気の作品集だったが、こちらは登場人物と、背景にある社会や「家」との関係をより鋭い筆致で描き出している。
6編のうちいちばん印象に残った作品が「ふらんだーすの犬」。好きな作品が「白菜」。「金魚」は最後でゾクッとする。「浅茅が宿」は主人公の心情がストレートに伝わってきてよかった。この4編に比べ、「ごはん」「ほおずき」は、やや理詰めで、読み物としてのおもしろさは感じなかった。ただ、これは私の読解力の至らなさによるところかもしれない。
