ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 最近読んだ本 2025年 其の二十二

恩田陸『蜜蜂と遠雷』

 今日は読書の話題です。恩田陸の『蜜蜂と遠雷』。

 2017年の直木賞受賞作で、文庫で上下巻に分かれていてかなり長い。最近このくらいの長さの本は、ほとんど手を出していなかったのだが、恩田陸の代表作ということなので読んでみた。読了した感想は、とても良かった。続みかけたらおもしろくて、続きをどんどん読みたくなり、一気に読み進めてしまった。上質のエンターテイメント小説を読んだという満足感があった。

 物語の舞台は日本で行われる芳ヶ江国際ピアノコンクール。若手音楽家の登竜門とされているコンクールで、世界各国から才能豊かなピアニストが集まる。中心となる登場人物は4人のピアニスト。かつて天才少女としてデビューしたが母の死をきっかけに音楽界から姿を消した栄伝亜夜、完璧な技術と音楽性を持つマサル・カルロス・レヴィ・アナトール、養蜂業の父親の元で育ち、自宅にピアノを持たない少年風間塵、楽器店勤務でかつてピアニストを志していた高島明石。

 このそれぞれ違った個性を持つピアニストたちと、周囲の人々、そして審査員たちや大会関係者も絡んで、コンクールを舞台にした人間ドラマが展開する。叙述の形式は三人称多元視点で、登場人物それぞれの個性や心理がしっかりと色分けされて描かれており、4人のピアニストたちの心理描写に感覚的な表現が多く用いられているが、基本的に文章は平易で読みやすい。クラシック音楽に縁のない私でも、場面をイメージしながら読むことができた。

 小説全体の構成は、コンクールの進行に合わせる形で、エントリー、第一次予選、第二次予選、第三次予選、本選という具合に章立てされていて、その中にさらに見出しを付けた小さな章がある。つまり主要な登場人物の演奏場面が複数回あるのだが、その都度、描写に変化がつけられていて、飽きることがない。特に印象的だったのが最終章で、本選のラストの演奏に栄伝亜夜が向かう場面。この小説のいちばんのクライマックスというところで、さっと場面が切り替わり、物語はエンディングに入りそのまま収束する。読み終えてみれば、その場面を描かないことが、いちばん効果的な小説の終わり方なのだと思った。

 解説を読むと、作者がピアノコンクールの話を書こうと考えてから数年間の構想を経て、取材も経て書き始められ、7年間かけて連載された小説だという。それだけの手間をかけた作品だと思った。

恩田陸『蜜蜂と遠雷』(上)

恩田陸『蜜蜂と遠雷』(下)