小川洋子『まぶた』
今日は読書の話題です。小川洋子の短編集『まぶた』ともう一冊。
25年ほど前の作品が収められている。小川洋子の短編集は今まで4冊読んでいて、作品の空気感には馴染みがあるのですっと入っていけた。文庫本で200ページほどの中に8編が収録されているので、短編のなかでも短めの作品が並んでいる。話の作りとしては、現実の世界の中に、いつの間にか空想の世界が入り交じっていくというような感覚的な作品が多い。寓意を読み取ろうとするのではなく、描かれた世界をそのまま味わえばいいのだろう。今まで読んだ中では、「海」収録の短編が一番気に入っているが、それに劣らず、すばらしい作品集だった。それでは何編か選んで感想。
「飛行機で眠るのは難しい」
「わたし」が飛行機で話しかけてきた隣の男から聞いた、オーストリア人の老女に関する奇妙な話を語るという構造になっている。老女は長年の文通をしていた日本人男性の墓参りに日本を訪れた話を男性に語るが、飛行機の中で急死し、男性はウィーンにある老女の家を訪ねる。話の作りがとても上手いと思った。昔読んだ、村上春樹の初期の短編と似た雰囲気を感じた。
「まぶた」
15歳の「わたし」は、ふとしたきっかけで出会った中年男Nと、スイミングスクールに通うふりをして、町から離れた島の家で秘密の逢瀬を重ねる。「わたし」は男の部屋で飼っていたハムスターを見せられる。そしてそのハムスターは……。
妖しく官能的で、危険な香りの漂う話。脇役的な登場人物までしっかりと描写されていて、情景が頭に浮かぶ。完成度の高い話だと思った。
「お料理教室」
「わたし」が料理教室に入ろうと訪れると、生徒は自分一人で、先生から一対一で指導を受けることになる。そこに排水管の清掃業者が訪れてという話。20ページほどの短い話だが、作者独特のユーモアが存分に発揮され、クスッと笑えた作品だった。(先生がシチューに排水管から出たニンジンの切れ端を入れるところなど)
「バックストローク」
「わたし」の弟は背泳ぎで記録を出すほどの水泳選手だったが、15歳の誕生日の翌日、突然左手を耳に沿って伸ばしたまま固まってしまう。そして……。
この話は高校の教科書にも収録されており、いろいろと仕掛けがある(ように見える)。この短編集の作品の中では、いちばん寓意を読み取るという読み方をしやすい話で、いくらでも深読みできそうな話だ。弟と母親の関係、そして姉である「わたし」と父も含めた家族というもののあり方を問いかけている。そういう角度から、謎を解き明かすように読むこともできるだろうが、私は読み物としてそのまま読んでみた。哀しく切ない、そして残酷な話だった。この話や「まぶた」は、再読したらさらに良さが見えて来る作品だと思うので、後でじっくり読んでみてもいいかと思った。

川村元気『世界から猫が消えたなら』
もう一冊、川村元気の『世界から猫が消えたなら』について。
この本はブックオフの100円コーナーで見つけた。聞いたことがある題名で、軽い読み物を一冊と思って買った。さっと読了。amazonのレビューでは平均4.0あるのだが、私の心には響かなかった。ファンタジーでも、小説に描かれた世界に存在感があり、心が動かされるという作品はあるが、この作品は、単に読みやすいだけでおもしろくない。レビュー読むと、感動したという声もあるので、感じ方は人それぞれということだろう。
