大山淳子『あずかりやさん~満天の星』
今日は読書の話題です。大山淳子の『あずかりやさん~満天の星』。
「あずかりやさん」シリーズの5冊目で、今のところ最新刊だ。例によって文庫本のブックカバーの上にオリジナルカバーがついている。内容は、冒頭に1ページのプロローグがあり、短編が4編収録されている。

このシリーズは、去年の春にシリーズ第1作を読んでから、すべて読んでいる。小学校の中学年くらいで読めるくらいの平易な文章で書かれているのだが、大人が読んでもおもしろい。これはすごいことだと思う。登場人物の心理描写や話の展開、伏線の張り方などが上手くて先を読みたくてページをめくってしまうというタイプの本だ。今回も期待通りだった。それでは感想を。
「金魚」
世の中への憤怒の塊のような物騒な男が登場する。語り手は男の手にする万能ナイフ。男は深夜にあずかり屋にやってきて、店主の桐島にナイフを突きつけるが、話をするうちに、心が次第に鎮まっていく。30ページほどの短い話だったが、印象的だった。最後の1ページの、男のその後の人生を描いた部分が、どこか哀愁を感じさせる終わり方だった。
「太郎パン」
語り手がなんと太郎パンという店で作られた焼きそばパン。中に余った福神漬けを入れられた焼きそばパンは、余り物として特価である紳士に売られ、訳あって預かり屋に1日預けられる。そして翌日に食べられてしまうまでの間にいくつもの人間ドラマを目撃する。パンが語り手とあって、どんな話になるのかと思って読んでいたが、期待にたがわずおもしろい展開だった。次の話への伏線が張られているのもさすがだと思った。
「ルイの涙」
語り手のルイは飼い犬。飼い主の女性は不妊治療で妊娠した子を二人流産で失い、ルイを飼うようになったが、そこで新たな妊娠が分かる。四十になっての妊娠に不安になる女性は預かり屋にあるものを預け、それを受け取りに来て、桐島と話をするうちに心が落ち着く。前の話でちょっと登場した人物がこの話の中心人物となるのは今までにもあったパターンだが上手い。この話は最後がハッピーエンドで終わっていて、それもよかった。
「シンデレラ」
語り手は店主の桐島の祖父の霊。3年前に千日分の預かり賃を払ってガラスの靴を預けていった女性が店にやってくる。靴を作ってもらった男性との恋愛のすれ違いが女の口から語られる。この話は、ラストで桐島が、女の子に預かった袋を開け、自分に宛てた点字の手紙を読む場面で終わる。それがプロローグと結びついており、さらに前作(シリーズ第4作)に出てきた登場人物を想起させる。このあたりもシリーズ作品としてのプロットの巧みさを感じた。

再読 ~ 橋本治『生きる歓び』
家の本棚を見ていて、30年ほど前に買った橋本治の本を再読してみた。橋本治は古典の現代語訳から現代小説、評論、エッセイ、戯曲までこなす作家だが、あまりにも多才で異能すぎて、全体像がつかみにくい人でもある。私は多くの作品群の中でも現代小説が好きだ。
『生きる歓び』には30ページほどの短編が9編収録されていて、現代の世の中にどこにでもいるような人々の生きる姿を描いている。衝撃的な事件が起きるわけでもなく、激しい感情の揺れが描かれるわけでもない。ひとことで言うと「どこかせつない」感じが漂う話。平成5年から6年にかけて書かれた作品ということは、まだ携帯電話やインターネットが普及していない時期だ。この翌年に阪神大震災と地下鉄サリン事件が起こる。時代が大きく動き社会が変質していく前夜のような時期で、何かなつかしい気持ちで読めた。特に好きな話を上げると「にしん」「あんぱん」「いんかん」「にんじん」「みしん」と、九編中五編になった。もちろん残りの作品もいい。
