桜木紫乃『家族じまい』
今日は読書の話題です。桜木紫乃の『家族じまい』。
桜木紫乃の作品は2冊読んでいるが、今回は比較的新しい作品を買った。6年前に雑誌掲載された作品で、題名の通り家族をテーマにしている。
話の舞台は北海道で、認知症になった老母の介護に伴う様々なできごとを、その家族や周囲の人々の視点から描いている。五つの章からなっており、それぞれの題名が中心となる女性の名前になっている。長編だが連作短編集に近い印象で読んだ。
第一章の智代は長女。彼女が妹の乃理から「ママがボケちゃったみたい」という電話を受け、話が始まる。夫の啓介の勧めで二人は遠く離れた実家を訪れ、父(猛夫)と母(サトミ)に会う。啓介の飄々とした感じがうまく描かれていて、話が重苦しくならずにすんでいるところが上手いと思った。
第二章の陽紅は啓介の弟である涼介のもとに嫁いだ女性。この章は、第一章の智代の両親をめぐる話からいったん離れる。子供を授かるために親子ほど年の離れた嫁をとったり、農協の窓口が「嫁の斡旋事業」の最前線になっていたりと、昭和の感覚を思い出す章だった。
第三章の乃理は次女。認知症の母と介護に疲れ暴力をふるう父を説得し、二世帯住宅を建てて自分たち家族と同居するようにさせるが、子育てや介護に疲れアルコールに溺れ、夫との関係も崩れていく。この小説のテーマの中心的な章になっている。個人的な感想だが、この章に関しては、作者が自分との距離をとるのに苦労しているような印象だった。
第四章の紀和はカーフェリーで演奏するサックス奏者。船の乗客である猛夫とサトミの夫婦と話を交わし親しくなる。紀和は猛夫に下船時に妻と一緒にいてくれるよう頼まれ引き受けるが。そこでトラブルが起こる。第三者の視点から描くことによって、老夫婦の姿に新しい光が当てられた感じで、いちばん好きな章だった。
第五章の登美子はサトミの姉。連絡の来ない妹のことが気がかりになり、猛夫とサトミの住む家を訪ねる。そこで訪れていた智代に、サトミが入院し、施設に入ることになるだろうという話を聞く。登美子は最後に、幼い頃のようにサトミと二人の時を過ごす。姉の登美子がとても魅力的に描かれていた。
今まで読んだ2作に劣らずい小説だった。『ホテルローヤル』の時も思ったが、描写はもちろん、構成が上手い。各章の中心となる女性が変わることによって視点が変わっていき、読み物として読者をひきつけるような仕掛けがされている。老夫婦を中心とした「家族じまい」だけでなく、登場人物それぞれの「家族じまい」が描かれていると思った。
