米澤穂信『黒牢城』
今日は読書の話題でミステリー2編。まず、米澤穂信の『黒牢城』。
前回読んだ『儚い羊たちの祝宴』があまり合わなかったのだが、4年前の直木賞受賞作とあって、エンターテイメントとしてのおもしろさを期待して読んだ。
戦国時代を舞台にした時代小説にミステリーの要素を融合した、あまり読んだことのないような小説で、作者のこの作品に注いだ熱量が伝わってくる、かなり練り上げられた力作だと思った。エンターテイメントとして気楽に読むには重い感じがしたが、プロに評価されて大きな文学賞をとるのはこういう作品かという印象だった。
舞台は戦国時代末期の摂津の国有岡城。織田信長に反旗を翻して籠城する荒木村重は、羽柴秀吉が遣わした使者である黒田官兵衛を地下の土牢に監禁する。このあたりは史実に沿った話で、そこからが作者の想像力による展開となる。
頼みとしていた毛利からの援軍の望みもなく、重苦しい空気が広がる有岡城内で、4つの不可解な事件が起きる。城内の人心の掌握のためにも事件の謎を解決しようとする村重は、土牢に下りて官兵衛に謎の解明を求める。官兵衛はみごとにそれを解き明かし、村重は窮地を逃れる。
序章と終章の間の4つの章で、それぞれの事件が解き明かされる。それぞれの事件のミステリーとしての謎解きにはちょっと無理があるものもあったが、第4章の後半で事件の全容が明らかにされ、4つの事件を貫くものの存在が明らかになる。このあたりの展開はさすがだと思った。また、終章の最後で官兵衛のわが子との対面を描くことによって、読後感が良いものになっていた。ちなみにこのエピソードは歴史上有名なものらしいが、私は知らなかった。
全体を通して、戦国時代を生きる人間たちの姿がしっかりと描かれており、読みごたえがある作品だったが、読み進めるのに時間がかかった。おもしろい小説は一気に読んでしまえるので、私にはあまり相性のいい作品ではなかったということだろう。特に主人公である村重の、戦国武将としての考え方に腑に落ちない部分が多く、どこかすっきりしないまま読んでいた。歴史をちゃんと知っていたら、もっとおもしろく読めたのだろうかと思った。

歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ」
次は歌野晶午の『葉桜の季節に君を想うということ」。20年ほど前に出た長編で、トリックにかなりの「大技」が使われているという予備知識はあった。いきなり主人公の性行為の描写から始まるのだが、ここからすでに叙述トリックが始まっている。話は章ごとに、現在から過去のいくつか時点に飛び、途中で視点が変わる章もあり、このあたりに仕掛けがあるという雰囲気が漂う展開だった。人物誤認トリックと時間軸に何かあるなというのは感じたが、いちばんメインの大技は最後の種明かしまで分からなかった。
読み終わった感想は、よくまあ、作者はこんなミステリーを書こうと思ったなということ。伏線はいろいろなところにちりばめられており、力作だと思ったが、「気持ちよく騙された」という感じではなかった。好きな人は、たぶん結末を知った上で二度読みするのがおもしろい小説だろう。個人的には、歌野晶午は2冊目だが、文章があまり好きになれないので、これで終わりにしようと思った。
