ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 最近読んだ本 2025年 其の十六

宮部みゆき『人質カノン』

 今日は読書の話題です。宮部みゆきの『人質カノン』。

 50ページくらいの短編が7編収録されている。ミステリーの短編集のつもりで買ったが、ミステリーは最初の「人質カノン」だけで、後はミステリー仕立ての短編か普通の短編といった感じだった。

 1990年代に発表された作品を集めたもので、宮部みゆきは代表作に長編の大作が多いので目立たないが、粒ぞろいでおもしろく読めた。とにかく、小説の世界の中に読者を引き入れるのが上手い。それはちょっとした情景や登場人物の心理の描写なのだが、そういったディテールが積み重なって、リアリティがあり読者が感情移入できる世界を作り出していることを感じた。

 それでは、3編選んで感想を。

「人質カノン」

 OLの逸子は、深夜に寄ったコンビニでピストル強盗に遭遇し、中年サラリーマンや中学生とともに人質になってしまう。犯人はフルフェイスのヘルメットをかぶっていることや、赤ん坊のガラガラを持っていたということから疑わしい人物が浮かび上がる。だが、逸子はどこか腑に落ちない部分が残り現場に行って関係者にたずねたりしてみる。そして意外な犯人が上がり、逸子の推測が当たっていたことが分かる。

 表題作であったこともあり、この作品がいちばんよかった。眼鏡の中学生など、登場人物の一人一人がしっかりと描かれており、結末に軽いどんでん返しがあるのだが、そこに至るまでの伏線の張り方も上手いと思った。

「十年計画」

 自分を裏切った男を交通事故に見せかけ殺そうという計画を、「わたし」に打ち明ける中年女性の話。どんなミステリー的な結末がと思い読んでいくと、最後の方で、その女性の正体と、会話をしている場面が明かされ、「なあんだ」となるのだが、その「なあんだ」がなぜか心地よく心に響く。味わいある話だった。このあたりは作者の文章と話の作り方の上手さのなせる業だと思った。

「八月の雪」

 主人公は、いじめグループから逃げる時、道路に飛び出し、トラックにひかれてしまい片足を失った少年。学校はたよりにならず、理不尽さを感じた彼は部屋でひきこもっている。そんな時、入院していた祖父が亡くなり、彼は祖父が遺していった書きつけから、祖父の若い頃に体験したある事件を知り、自分が生きていくことの意味を見つけようという気持ちが生まれていく。

 50ページほどの短編だが、重いテーマをしっかり正面から描いた短編だと思った。この短編集には、この作品以外にも「いじめ」を題材とした作品が2編収録されている。これらの作品が書かれた1990年代は「いじめ」が大きく取り上げられるようになった時期で、社会問題と向き合おうとする作者の姿勢がよく出た作品だと思った。「いじめ」の問題は、この作品が書かれてから30年経つ現代も、ネット社会の中で、形を変えて存在している。

宮部みゆき『人質カノン』