ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

私の読書 ~ 最近読んだ本 2025年 其の十一

竹山道雄『ビルマの竪琴』

 今日は読書の話題。最近読んだ本3冊の感想。

 1冊目は『ビルマの竪琴』。誰でも名前は知っているが読んだことがない本が結構ある。『ビルマの竪琴』もそんな本のひとつだ。この前、よく行くブックオフの110円の棚にあったので、思わず買ってしまった。昔の児童文学全集の中には必ずあって、小学校高学年から中学生くらいで読む本だったという印象がある。

 読みかけて、どこかなつかしい感じがする。私が小学生の頃読んでいた、山本有三、坪田譲治といった、児童文学ではあるが大人の読み物としても通用する作家の小説を読んでいた時と同じ匂いを感じた。『ビルマの竪琴』は戦争末期から戦後にかけてのビルマを舞台としている。

 ビルマ戦線を行軍する日本軍のある部隊は、いつ戦闘が始まるかもしれない状況下にあっても、歌をうたうことによって団結力を高めている。兵隊たちは蘆や竹などのありあわせの材料を用いて楽器を作るが、ビルマ人が弾く竪琴をまねた手製の竪琴の名人が水島上等兵だった。水島上等兵の竪琴の音は音色が美しいだけでなく、窮地から部隊を救う役割を果たす。そして最後に、イギリス軍が迫り絶体絶命と思われた時、水島の伴奏によって歌った「はにゅうの宿」がイギリス兵の心をうち、敵軍の兵士と打ち解けるとともに、すでに終戦となっていたという事実を知る。

 上に書いたのが第一話のあらすじで、二話、三話と続くのだが、二話以降は、イギリス軍の捕虜となった仲間たちから離れ、使いに行ったまま消息を絶った水島の運命が話の中心となる。結局、水島は紆余曲折を経た末、ビルマの僧となって、戦地で命を失った日本兵の屍を埋葬し、慰霊のために生涯をささげることを決意する。

 ざっとこういう話だ。読んでいて思ったのは、戦後間もない時期に書かれたということで、時代の空気が感じられるということだった。作者はその中で、戦時中の軍国主義的な立場でもなく、その反動としての戦後のイデオロギーにもよらず、独自の視点から、主人公の水島の人間愛を描いている。作品の後に収録されている「ビルマの竪琴ができるまで」という作者の手によるあとがきは、小説が完成するまでの経緯や創作意図を知る上で、たいへん興味深かった。少し長いが一部を引用。

 当時は、戦死した人の冥福を祈るような気持ちは、新聞や雑誌にはさっぱり出ませんでした。人々はそういうことは考えませんでした。それどころか、「戦った人はだれもかれも一律に悪人である」といったような調子でした。日本軍のことは悪口をいうのが流行で、正義派でした。義務を守って命をおとした人たちのせめてもの鎮魂をねがうことが、逆コースであるなどといわれても、私は承服することができません。あの戦争自体の原因の解明やその責任の糾弾と、これとは、まったく別なことです。

 ふと手に取ってみて、今読んでみてよかったと思えた一冊だった。

竹山道雄『ビルマの竪琴』

橋本治『橋本治のかけこみ人生相談』

 2冊目は、『橋本治のかけこみ人生相談』。橋本治は独特の古典の現代語訳から現代小説、評論、エッセイ、戯曲まで幅広くこなす天才的な作家だ。最初に読んだのは、かなり昔、何となく買った短編集『愛の矢車草』で、たいへんおもしろかったことを覚えている。個人的には昭和三部作と呼ばれる『巡礼』『橋』『リア家の人々』あたりの作品が好きで、一つ選ぶとすれば『巡礼』。

 この本は、たまたまブックオフに寄った時に書棚にあったので買った。10年ほど前に雑誌に連載していた「かけこみ人生相談」をまとめて文庫本で出版したものだ。相談は、「会社がつらいけどなぜでしょう?」「酒癖のひどい夫と別れた方がいいでしょうか?」といったよくあるものだが、回答は丁寧で、なにより対処療法的ではなく人間の本質をとらえている。人生相談だが、読み物としておもしろく、一気に読んでしまった。

橋本治『橋本治のかけこみ人生相談』

長嶋有『ぼくは落ち着きがない』

 3冊目は長嶋有の『ぼくは落ち着きがない』。長嶋有の作品は、以前、芥川賞受賞作の『猛スピードで母は』を読んで、とてもおもしろかったので買ってみた。

 結論から書くと、この作品は心に響いてこなかった。

 話の舞台はある高校の図書部。図書室の一部をベニヤ合板で仕切ったところに図書部室があり、部員たちはそこに集まって会話を交わす。彼ら、彼女らは教室では居場所がなさそうで、図書室に居心地の良さを感じている。とりたてて大きな事件が起こるわけでもなく、文系ややオタク寄りの高校生たちの会話と日常の描写で話が進み、終わる。

 平易なことばで書かれており、登場人物の姿も色分けされているのだが、ひとりひとりの姿が不思議なくらいイメージできないし読み進めにくい。これは作品が悪いのではなく、どうも私と作品との相性がよくないのだろう。

長嶋有『ぼくは落ち着きがない』