歌野晶午『ハッピーエンドにさよならを』
今日は読書の話題でミステリー編。
1冊目は、歌野晶午の『ハッピーエンドにさよならを』。ミステリーの短編で、面白いものをと思い、ネットでお勧めにあって手にとったのがこの本。歌野晶午は私と同世代のベテラン作家だが、今まで読んだことがなかった。
350ページくらいの文庫本に短編が11編。長いものでも50ページくらいで、ショートショートと言ってよいものもあった。探偵役が事件を解決するというタイプではなく、ミステリー仕立ての短編小説といった感じで、一つ一つ筋立ては違うが、結末はすべてバッドエンド。どんでん返しが用意されている。傾向としては、偏執的な狂気を感じさせる人間を描いたものが多かった。
感想としては、筋立てにはかなり強引なものがあったが、話の中にすっと入っていける文体で、全体的にはおもしろく読めた。
10編目まで読んで、よかったのが、「死面」、「防疫」、「殺人休暇」といったところ。そして最後の作品が「尊厳、死」。この作品のラストが思わすうなってしまった。話は、社会に背を向けた孤独なホームレスを描いたもの。主人公はホームレス仲間と一緒に生活することもなく、公園で一人野宿していて、夜に中学生たちに何度も襲撃され、痛めつけられるがされるがままになっている。一方で支援するボランティアの女性が現れ、声をかけるが、それも拒絶する。その果てに悲劇が起きる。
そして最後の一行のどんでん返し。どんでん返しがすごいという評判のミステリーを読んで、それほどでもないなと思うことがよくあるが、これには意表を突かれた。レビューで点数をつけるとするなら、『尊厳、死』という作品だけで、短編集全体の☆が一つ増えるくらいだった。
宮部みゆき『我らが隣人の犯罪』
2冊目は、宮部みゆきの『我らが隣人の犯罪』。通勤の電車中でも読める軽めのミステリーの短編集をと思って買った。宮部みゆきの作品は「外れ無し」という印象があり、読む前からハードルは高めになるのだが、初期の作品とのことで、今まで読んだ作品と比べて、ややこなれていない印象だった。250ページほどの文庫本に5篇短編が収録されている。その中から3篇選び感想を。
「我らが隣人の犯罪」
集合住宅で、隣家の女性が飼う犬の吠え声に悩まされる家の話。主人公の少年が、叔父と協力して犬の誘拐を企てるが、その計画の中で、隣家の秘密に気づき、叔父の提案で、金儲け目的のさらに大胆な計画に移る。読んで思ったのは、やはり文章が上手く、内容がすっと頭に入って来る。話がテンポよく展開していき、面白く読めたが、終盤でどんでん返し的な仕掛けが多すぎて、やや消化不良気味の印象もあった。
「この子誰の子」
両親不在の大雨の夜、一人で留守番する少年の家に、赤ん坊を抱いた女がやって来て、その子が少年の父の隠し子だと主張するが、少年はそれがあり得ないことだと知っている。最後に女は自分の話が嘘だったことを告白するが、結末でまた意外な展開がある。よく練られた話だと思った。
「祝・殺人」
バラバラ殺人事件の捜査班の刑事が、妹の結婚式で偶然知り合ったエレクトーン奏者の女性から、事件についての相談を受け、それが事件の解決へと結びつく。5篇の中ではいちばん本格的なミステリーだった。なぜ死体をバラバラにしたのかという動機が、やや強引ではあるが意表を突くもので面白かった。