貫井徳郎『プリズム』
今日は読書の話題でミステリー編。最近読んだ3冊。
まず1冊名は貫井徳郎の『プリズム』。もう20年以上前の作品になる。
事件は小学校の若い女性教師が自宅で殺されるという事件から始まる。被害者の山浦美津子は生徒に人気のある教師だが、一方でその奔放な性格から、男性関係も多い、彼女の部屋からは睡眠薬入りのチョコレートが発見され、チョコレートを贈った同僚の男性教師の南条が疑われるが、事件には被害者の周囲のいろいろな人物が絡んでいることが明らかになっていく。
小説は4つの章から成り、それぞれの章で、被害者の教え子の男子生徒、同僚の女教師、元恋人、不倫相手が語り手となって、事件を推理していく。
さて、感想だが、シリアスなミステリーにしては設定が甘い。もちろん、ミステリーに描かれる警察の捜査方法など、現実とは違っていることも多く、ある程度は読者も分かった上で読んでいくのだが、あまりにもというところが随所にあった。
教師が被害者になっている殺人事件で、クラスの子どもや親に学校から事件の状況がぼろぼろ漏れるなどということはあり得ないし、担当の刑事が捜査状況を関係者に世間話的に話すということもあり得ない。また登場人物の推理も、無理のあるものばかりで現実味がない。「夜、部屋に忍び込んで同僚教師の女を襲うために、バレンタインのお返しとして、ホワイトデーに睡眠薬入りのチョコレートを宅配便で送る」って、これだけでも突っ込みどころが満載だ。細かいところを挙げていけばきりがない。
ある事件を複数の人物の視点から描いていき、それによって読者の目に映る被害者の姿も変化していく。そういった試みの部分はおもしろいが、雑なところが多すぎて、物語をシリアスなものとして読めなかった。
綾辻行人『どんどん橋、落ちた』
短編集でおもしろいものを読みたいと思って買ったのがこの本。25年前の作品だ。綾辻行人は私とほぼ同年代の作家で、当時新本格派の出発点となった作品を書いた作家の一人だ。私はかなり以前に2冊ほど読んだ。
『どんどん橋、落ちた』は5つの短編が収録されているが、どれも作者自身が作中に登場して謎解きに挑戦するという形をとっており、メタミステリー的な要素が強い短編集だ。また、第四話の「伊園家の崩壊」の登場人物が「サザエさん」のパロディーになっているなど、それぞれの作品にはいろいろな仕掛けがある。中にはマニアにしか分からないものもありそうだが、それはそれでおもしろい。好き嫌いが分かれそうな作品ではあるけれど、私は結構楽しめた。
最後の解決篇を読んで、読者が「やられた!」と思うか、「なあんだ」と思うかが、この系統の作品の出来の良し悪しだと思うが、私個人の順位付けをすると、「やられた!」から順に、「意外な犯人」>「どんどん橋落ちた」=「フェラーリは見ていた」>「ぼうぼう森、燃えた」=「伊園家の崩壊」くらいの感じだった。
北山猛邦『私たちが星座を盗んだ理由』
北山猛邦は初めて読む作家だ。ミステリーの作品で新規開拓のつもりで、いい短編集をと思いネットで調べていたら、この短編集がお勧めに出てきた。
5つの短編が収録されている。読み始めて、最初はライトノベル風の文体が合わない感じだったが、読み進めるにつれてだんだんなじんできた。すべて、最後にどんでん返しが待っている。5篇のうち、2篇がファンタジーの要素が強い作品で、3篇がリアルな世界を描いた作品。
ファンタジー系の2篇について。「終の童話」は人間を石に変える石喰いという怪物が登場する。読者レビューを読むとこの話がいちばん人気があるようだったが、私はあまり物語の世界に入り込めなかった。「妖精の学校」の方が話の雰囲気はよかった。結末に出て来る数字の意味は、後で調べないと分からなかったが、そういう話の作り方もありだと思った。
残り3篇では、「私たちが星座を盗んだ理由」がよかった。「星座を消す」という発想、それから登場人物の気持ちの行き違いとその後に起きた悲劇が上手く物語として組み立てられていて、いい作品だと思った。後の2篇「恋煩い」「嘘つき紳士」は、ちょっと話の展開に無理がある気がした。