ナラネコ日記

私ナラネコが訪ねた場所のことや日々の雑感、好きな本のこと、そして猫のことを書き綴っていきます。

最近読んだミステリー ~ 2024年 ③

米澤穂信『満願』

 今日は読書の話題でミステリー編。最近読んだ2冊の感想。

 読んだことのない作家を新規開拓しようと思い買ったのが、米澤穂信の『満願』。2年前に直木賞を受賞した作家だが、手始めにと思い、これもいくつかの賞を受賞したこの短編集を買ってみた。

 短編集にはいわゆる連作と呼ばれるものがあるが、『満願』には、6編とも設定が異なる独立した短編が収録されており、作者の創作に対する矜持のようなものを感じた。設定がやや強引に感じた作品もあったが、全体としてはおもしろく読めた、

 それでは簡単に感想を。

「夜警」

 当直中の若い巡査が、緊急の出動で拳銃を使用するが、相手を死亡させ、自分も刺され命を落としてしまう。そしてその事件の陰に意外な真相が隠されている。追い詰められた人間の心理と行動がうまく描かれていた。

「死人宿」

 別れた恋人を訪ねて「私」が訪れた山中の宿屋は「死人宿」と呼ばれる自殺者が訪れる宿だった。そこで落ちていた遺書が誰のものか、恋人に依頼され「私」は推理を巡らせる。設定はおもしろいが作り物感が強く、あまり話に入り込めなかった。それと最後の2ページに関しては、ない方がいいと思った。

「柘榴」

 中学生姉妹とその両親の間に織り成される官能的な物語。これはあまり好きではないタイプの話だった。

「万灯」

 インドネシアに派遣されたビジネスマンの身に起きる悲劇。話としてはおもしろく読めたが、大企業のビジネスマンが、いくらひと時代前のモーレツ社員でも、仕事のために殺人まで犯すだろうかという感じがして、あまり現実味は感じられなかった。

「関守」

 字交通事故が多発する峠を取材に訪れたライターが、峠の手前の小さなドライブインを切り盛りする老婆に話を聞く。そして真相が分かり、意外な結末が待っている。この話がいちばんよかった。

「満願」

 学生時代の恩人である女性が殺人を犯し、弁護士として尽力する「私」だが、女性は控訴を取り下げる。その裏に隠された意外な事実が判明する。表題作だけあって、いちばん作品の完成度は高いと思った。ただ、何回か読み返したのだが、最後に描かれている殺人の場面での女性の心理には無理がある気がした。

米澤穂信『満願』

東野圭吾『祈りの幕が下りる時』

 2冊目は、東野圭吾の『祈りの幕が下りる時』。

 10年ほど前に出た本で、加賀恭一郎シリーズの一つ。私が初めて読んだ東野圭吾のミステリーが『悪意』で、これもそうだった。ちなみに『悪意』は今まで読んだ東野圭吾の作品の中ではベスト3に入っている。

 過去に仙台で孤独死したある女性が加賀恭一郎の実母であったという逸話から話が始まる。そして話はその10年以上後、東日本大震災の後の東京での殺人事件に変わる。仙台から上京して、幼なじみの演出家浅居博美を劇場に訪ねた押谷道子という女性は、その後見知らぬ男のアパートで殺害される。同じ時期に河川敷でホームレスの焼死体が発見され、2つの事件の関連を疑った松宮刑事は捜査の中で従兄でもある加賀に相談する。加賀の推理で焼死体はアパートの住人であったことが分かるが、部屋に残されたカレンダーの書き込みが加賀の母の部屋にあったメモと一致したことから、加賀も捜査に乗り出していく。

 浅居博美の過去、そしてアパートの住人であった男性の身元について捜査は進められるがなかなか決定的な手がかりはつかめない。だが、その中で加賀がそれまでの捜査で見落としていたことに気づき、真相があきらかにされていく。

 さて、感想。いろいろな出来事が起こり、一見バラバラに見えるそれらの要素が、結末に明かされる事件の真相に結びついていくところはさすがだと思った。ただ、捜査や加賀の推理があまりにも筋書き通りに進んでいくのが気になった。たとえば警察の捜査は最初から浅居博美に集中するが、彼女はその時点ではたまたまその日に被害者と会っていた人物というだけで、事件の重要な関係者とまでは考えられないはずだ。また日本橋の橋洗いの行事の話を聞いた加賀が、橋洗いの写真をしらみつぶしに調べることを思いつき、そこに浅居博美を見つけるというのもうまく進み過ぎている感がある。そういったところが話の中盤あたりにいくつかあった。また押谷道子が殺害される状況も、展開が強引であるように思った。したがって、読んでいて「作り物感」が先に立ち、すっきりと話の中に入っていくことができなかった。 

 力作であると思ったが、今まで読んだ東野圭吾の作品の中で、上位に入れられる作品とまではいかなかった。

東野圭吾『祈りの幕が下りる時』